企業活動において発生する業務の多くは、「定型業務(ルーチンワーク)」と「非定型業務(イレギュラーな業務)」に大別されます。前者は毎日・毎週・毎月など、一定のサイクルで繰り返される作業を指し、後者は都度新たな対応や判断が必要になる作業です。さらに、一定期間内に目標を達成するために運営される「プロジェクト業務」もあり、これらを適切に区別し、効率化することで組織全体の生産性を大幅に底上げすることが可能です。
これまで本シリーズでは、業務一覧表や作業手順書、マニュアル整備、平準化、ナレッジマネジメント、マネジメントサイクルなど、多岐にわたる業務改善手法を取り上げてきました。今回取り上げる「定型業務」と「非定型業務」の違いや、それぞれの効率化・最適化ポイントを理解すると、前回までに学んだ手法をさらに有効活用できます。中小企業では、属人化しがちな反復作業を自動化・標準化し、創造性が求められる作業へ人材をシフトさせることが競争力強化の近道です。
本記事では、定型業務・非定型業務・プロジェクト業務 の特徴を整理するとともに、各形態ごとの効率化ポイントを解説します。具体的な事例やツール導入のヒントも交えながら、貴社の業務フロー見直しと最適化に役立つ視点を提供しますので、ぜひ最後までお読みください。
(このサイトでは、中小企業が業務プロセスの最適化を実践し、持続的な成長を実現するための総合的な情報を提供しています。全体像や関連する記事は「業務プロセス最適化ガイド|全15ステップで基礎から応用まで」でご覧いただけます。)
まずは、それぞれの業務形態の違いを明確にしておきましょう。業務を大きく3つのカテゴリに分けると、最適な管理手法や効率化の方向性が見えやすくなります。
業務一覧表を作成した際、各作業を 「定型業務」「非定型業務」「プロジェクト業務」 のいずれかに分類すると、管理と効率化の方向性がより明確になるでしょう。
業務分類テンプレート
定型業務は、毎回同じ(あるいは非常に類似した)内容の作業を繰り返すため、「標準化」「自動化」 といったアプローチとの相性が非常に良いのが特徴です。ここでは、主な効率化の視点を整理します。
中小企業でも、比較的低コストで導入できるRPAツール(UiPath、WinActorなど)や、SaaS型サービスが増えているため、簡単なレポート作成やデータ入力程度なら導入ハードルが下がっています。ただし、導入前に「そもそもその業務工程が本当に必要か?」を検証し、不要なステップを省くリストラも並行して行うのがベストです。
定型業務は手順が定まりやすいため、作業手順書やマニュアル整備との相性が抜群です。特に中小企業では属人化が進みやすいので、以下のようなステップを踏むと効果的です。
定型業務は、月末・週末など特定のタイミングに集中しがちです。第4回で取り上げた「平準化」の考え方を導入し、業務負荷のピークを分散させると残業削減や品質安定につながります。たとえば、経理処理を1度にまとめてやるのではなく、週次や日次で分割する、あるいは複数の担当者でローテーションを組み、属人化を防ぐ といったアプローチが挙げられます。
定型業務の中でも紙の書類や押印プロセスが多い分野(経理、総務、人事)では、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進で大きな時短とコスト削減が期待できます。具体的には電子署名サービス や オンライン請求書管理、クラウド会計ソフト などが代表的。特に中小企業で紙・FAX文化が根強い環境では、導入効果が顕著に出るでしょう。
非定型業務は、都度新しい判断や対応が求められるため、定型業務のように「全面自動化・標準化」するのは難しい領域です。むしろ、担当者の裁量や創造性 が成果を左右するケースが多いため、管理方法も異なってきます。
非定型業務でも、「過去に類似の対応をしたことがないか?」 や 「成功事例・失敗事例から学べるノウハウはないか?」 という視点は非常に重要です。
こうした仕組みを整備すれば、非定型業務においてもある程度の「再利用可能な知恵」を蓄積でき、属人的リスクを軽減できます。
非定型業務は、自動化やツール導入だけで解決できるとは限りません。判断が求められる場面が多いため、チームリーダーや管理職が現場メンバーと密にコミュニケーションを取り、適切な指示やサポートを行う体制が大切です。
一方、非定型業務には担当者の裁量や柔軟な発想が求められる場面が多いのも事実。細かい手順書や厳格なルールでがんじがらめにすると、創造力が阻害される 可能性があります。中小企業のメリットとして、上層部との距離が近く、即断即決や柔軟な試行錯誤がしやすい点が挙げられます。
プロジェクト業務は、定型でも非定型でもない「期間限定の特別タスク」という位置づけです。新製品開発や大規模リニューアル、システム導入など、一度きりの大きな目標を設定し、達成すればプロジェクトは終了する形です。
プロジェクトは大きな成果を狙える反面、失敗すると組織全体に影響が大きいため、プロジェクトマネジメント手法(PMBOK、アジャイル、Scrum など) を取り入れるのが効果的です。中小企業の場合、以下のポイントが重要となります。
プロジェクトは成果物を完成させて終わりではなく、その過程で得た学びを組織に蓄積 することも重要です。特に中小企業では、プロジェクト終了後にメンバーが離職や異動をするとノウハウが失われてしまいがちなので、「プロジェクト後の振り返り会」 を行い、成功要因・失敗要因・改善ポイントをドキュメント化し、ナレッジマネジメントシステムやWikiに保管すると良いでしょう。
ここでは、中小企業が定型・非定型・プロジェクトそれぞれの業務特性を見極め、効率化に成功した例を紹介します。
中小企業が業務全体を最適化するうえで、「定型業務」「非定型業務」「プロジェクト業務」 の違いを意識することは非常に重要です。定型業務は自動化・標準化の余地が大きく、ミスや時間ロスを削減する好機があります。一方で、非定型業務は担当者の創造性や判断力がカギとなるため、情報共有やマニュアル化、コミュニケーション体制の整備が欠かせません。さらに、プロジェクト業務は期間限定のゴール設定が特徴であり、プロジェクトマネジメント手法を活用することで成功確率を高められます。
自社内の業務を正しく分類し、効率化の手法を使い分けることで、属人化やムダ、ミスを大幅に低減できるだけでなく、「付加価値の高い仕事」 に人材を配置しやすくなります。これは中小企業にとって、限られたリソースで最大効果を狙う 上で非常に有効なアプローチです。また、これまで本シリーズで紹介してきた業務一覧表、作業手順書、ナレッジマネジメント、マネジメントサイクルなどとも連動させれば、定型業務の最適化から非定型業務の質向上、プロジェクトの成功に至るまで、幅広い改善効果が見込めるでしょう。
次回は、「見える化のデメリットとは|取り組みの基本と注意点」をテーマに、よく語られる「見える化」の利点だけでなく、その裏に潜むデメリットや取り組む際の注意点を深掘りします。定型業務、非定型業務、プロジェクト管理でも「見える化」は役立ちますが、やりすぎや情報過多などが混乱を招くリスクもあるため、正しい使い方を学んでいきましょう。
もし、定型業務の自動化や非定型業務の管理、プロジェクト運営などに課題を感じている場合は、エスポイントまでお気軽にご相談ください。 それぞれの業務形態に合わせた効率化ノウハウやツール導入支援、プロジェクトマネジメントの導入サポートを通じて、貴社の業務最適化をトータルにバックアップいたします。
本シリーズの全体構成や他の関連記事は「業務プロセス最適化ガイド|全15ステップで基礎から応用まで」で確認できます。
業務分類テンプレート
→ 自社の業務を「定型業務」「非定型業務」「プロジェクト業務」に分けて整理できるシート。担当者、頻度、必要スキルなどを併記し、改善余地を検討しやすい形にまとめられます。
プロジェクト管理WBSサンプル
→ プロジェクトのタスク一覧や依存関係を可視化するWBS(Work Breakdown Structure)のサンプルフォーマット。小規模から中規模のプロジェクトまで幅広く利用でき、タスク担当と期限を明確にするのに役立ちます。
*テンプレートのPDF内にGoogle Spreadsheetのリンクがあります。適宜コピーの上ご活用ください。