企業が持続的に成長し、競争力を維持・強化するためには、業務プロセスの改善が欠かせません。 これまで本シリーズでは、業務一覧表を活用した全体像の把握や、作業手順書・マニュアルの整備、平準化、ナレッジマネジメントなどを取り上げてきました。
それらは組織としての業務を「見える化」するための強力なツールですが、それらを真に実効性のあるものにするには、「現場のリアルな声」 をいかに拾い上げるかが決定的なカギとなります。 システムログには残らない「現場の感情」、「微妙なカンコツ」、「言いにくい悩み」。 これらを引き出すアプローチが「業務ヒアリング」です。
2026年の現在、AIによるデータ分析やログ解析は進化しましたが、それでも「なぜその作業をするのか?」という意図や文脈を解き明かすには、人間同士の対話が不可欠です。 本記事では、AIツールによる記録・分析支援と、人間ならではの「共感力」を組み合わせた、現代的で効果的なヒアリング手法を解説します。
(このサイトでは、中小企業が業務プロセスの最適化を実践し、持続的な成長を実現するための総合的な情報を提供しています。全体像や関連する記事は「業務プロセス最適化ガイド|全15ステップで基礎から応用まで」でご覧いただけます。)
業務ヒアリングとは、単なる「聞き取り調査」ではありません。 現場担当者へのインタビューを通じて、「データの裏にあるストーリー(文脈)」を解き明かすプロセスです。 経営者や管理職が見ている「数字(KPI)」と、現場が感じている「肌感覚」の間には、必ずギャップがあります。そのギャップを埋めるのがヒアリングの役割です。
「この業務はシステム化されているはずだ」と思っていても、実際は「Aさんがシステム外でExcel加工してから入力している」というケースは多々あります。 こうした「システムログに残らない手作業」は、直接聞かない限り永遠に見つかりません。
ベテラン社員の「なんとなく」の判断には、貴重なノウハウが詰まっています。 「なぜその時、処理を止めたのですか?」と深掘りすることで、AIにも学習可能な「判断ロジック(形式知)」として抽出することができます。
「上層部が勝手に決めた」改善案は、現場の反発を招きます。 「私たちの話を聞いてくれた」というプロセスそのものが、後の改善実行時の協力体制(心理的安全性)を作ります。
「何か困っていることはありませんか?」という漠然とした質問はNGです。 準備の質が、回答の質を決めます。
いきなり聞きに行く前に、アクセスログやチャット履歴を確認しましょう。 「月末にシステムAのアクセスが急増している」「チャットで『重い』という発言が多い」といった事実(ファクト)を掴んでおくと、 「月末の処理でシステムが重くて困っていませんか?」と鋭い仮説質問ができます。
かつては「メモを取ること」に必死で、相手の顔を見られないことが課題でした。 現在は、Zoom/Teamsの録画機能や、議事録作成AIを活用すべきです。 「AIが記録してくれるので、私はお話に集中しますね」と伝えることで、インタビュアーは相手の表情や声のトーン(非言語情報)の観察に全集中できます。
*「業務ヒアリング質問リスト」は、記事末尾の補足コンテンツからダウンロードいただけます。
図1 業務ヒアリング5つのステップ
データを見て「ここが怪しい」というアタリをつけます。 対象者は「最も熟練した人(あるべき姿)」と「新人(つまづきポイント)」の両方を選ぶと、ギャップが浮き彫りになります。
まずはオープン質問(「どう感じますか?」)で全体感を掴み、次にクローズド質問(「Yes/No」)で事実を確定させます。
「百聞は一見にしかず」です。
聞いた内容を鵜呑みにせず、データで裏付けを取ります。 「毎日3時間かかっています」という証言に対し、システムログ(プロセスマイニング)を確認したら「実際は1時間だが、待ち時間が長くて体感時間が長かった」という事実が判明することもあります。 「主観(ヒアリング)」と「客観(ログデータ)」をセットで分析するのが現代の流儀です。
整理した課題一覧を現場に見せ、「この認識で合っていますか?」と確認します。 「私たちの困りごとを正しく理解してくれた」という合意が得られれば、その後の改善策もスムーズに受け入れられます。 一方的なレポート提出で終わらせないことが重要です。
集めた情報は、整理して初めて価値が出ます。
全ての要望は叶えられません。
AIツールを使えば、ヒアリング記録から「ポジティブ/ネガティブ」の感情分析が可能です。 「Aさんはこの話題の時だけ声のトーンが下がった」という分析結果から、潜在的な抵抗感や不安を検知することができます。
業務ヒアリングは、アナログで泥臭い作業に見えますが、AI時代だからこそ価値が高まっています。 AIは「データ」を読み解くことはできますが、人の「痛み」や「想い」まで読み解くことはまだ苦手です。
「AIに記録・分析を任せ、人間は共感と深掘りに徹する」。 この役割分担こそが、DX時代の正しいヒアリングです。 現場の声とデータが合致した時、誰もが納得する「本当に意味のある業務改善」がスタートします。
次回は、ヒアリング等で見つけた課題を継続的に解決していくためのフレームワーク「9.マネジメントサイクル(PDCA・OODA)」について解説します。 変化の激しい時代に適した、高速回転型の改善サイクルとは何かを学びましょう。
「ヒアリングをしたいが、質問項目が作れない」「聞いた内容をうまく整理できない」といったお悩みをお持ちの方は、エスポイントまでお気軽にご相談ください。 第三者の視点が入ることで、社内の人間関係に縛られない本音のヒアリングが可能になります。
本シリーズの全体構成や他の関連記事は「業務プロセス最適化ガイド|全15ステップで基礎から応用まで」で確認できます。
*テンプレートのPDF内にGoogle Spreadsheetのリンクがあります。適宜コピーの上ご活用ください。