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第1回:事業再生と廃業の基礎知識

第1回事業再生と廃業の基礎知識

経営が行き詰まった企業には、大きく分けて 「事業再生」「廃業」 という二つの選択肢があります。事業再生は企業を立て直して事業を継続する道であり、廃業は事業活動を停止して清算する道です。公的なガイドラインにおいても、中小企業向けの私的整理手続には事業再生を目的とする「再生型」と事業の廃止(廃業)を目的とする「廃業型」の両方が定められており 、状況に応じていずれかが選択されます。重要なのは、自社の財務状況や事業の将来性を客観的に見極め、再建すべきか撤退すべきかを早めに判断することです。

本記事では、事業再生と廃業の違いを明確にし、それぞれの適用条件やメリット・デメリットを解説します。また、どのような企業がどちらの選択肢を取るべきか判断するための視点を提供します。さらに、具体的な手続きや活用できる公的支援策について、ガイドラインや支援制度などの公的資料を引用しながら詳しく説明します。最後に、現場でよくある質問(Q&A)を通じて実務的な疑問にも答え、企業経営者の不安や悩みを少しでも解消できるよう努めます。


想定読者

  • 経営が行き詰まり、事業再生を目指している企業の経営者・管理職
  • 自社の財務状況を見極め、事業再建と廃業のどちらが最適か判断したい人
  • 事業再生の基本を理解し、具体的な手法や公的支援策を活用したいと考えている人

この記事のゴール

  • 事業再生と廃業の違いを明確にし、それぞれの選択肢を理解する
  • 再生可能性を判断するための視点や基準を提供する
  • リスケジュール・DDS・DES・M&Aなど、主要な事業再生手法を整理する
  • 事業再生や廃業を進める際に活用できる公的支援制度を紹介し、実務的なヒントを提供する

目次


1.事業再生とは

事業再生とは、業績不振や過剰債務に陥った企業について、財務や事業の構造を抜本的に見直し、再建を図ることです。目的は、収益力を回復させて事業の継続を可能にし、企業価値を維持・向上させることにあります。近年では、新型コロナウイルス対応のゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)の返済開始が本格化し、コロナ前水準まで利益が戻らない企業も多く、債務返済に苦慮する中小企業が増えています 。こうした背景から、金融機関や政府は事業再生支援の重要性を一層強調しており、事業者の状況に応じた的確な再建策の検討が求められています。

具体的な再生手法としては、主に次のようなものがあります。

  • リスケジュール(返済猶予):金融機関からの借入金の返済条件を変更し、元本返済の一時停止や支払期限の延長などで資金繰りを緩和する方法です。返済期限を延長するなど返済条件を変更することによる金融支援で、比較的初期段階の再建策として用いられます 。借入先が複数ある場合は全金融機関の協調が重要になります。メリットは毎月の返済負担を減らし時間を稼げる点ですが、あくまで猶予措置であり根本的な債務圧縮にはならないため、猶予期間中に収益改善策を実行しないと延命に終わるリスクがあります。

  • DDS(デット・デット・スワップ):一部債務の劣後ローン化とも呼ばれます。金融機関が保有する貸付債権のうち一定部分を、他の債権より回収順位の低い劣後債権に切り替える手法です。これにより当面の元本返済負担が軽減され、通常の借入金より後順位とすることで実質的に資本性資金のように扱われます。最終的には返済義務が残るものの、金融機関側にとっては債権放棄よりハードルが低く、中小企業再生ではDDSが活用されるケースもあります。メリットは債務超過の改善や返済負担軽減につながる点、デメリットは債務そのものは残るため抜本的解決ではない点です。

  • DES(デット・エクイティ・スワップ):債務の株式化とも言われます。金融機関が保有する債権を株式に転換し、借入金を資本(自己資本)に振り替える再生手法です 。これにより帳簿上は負債が減少し自己資本が増強されるため、財務体質が大幅に改善します。ただし金融機関が株主となるため、中小企業では金融機関側の運用上の制約からDESはあまり利用されず、主に大企業の再建で用いられる傾向があります。メリットは債務圧縮効果が大きい点、デメリットは経営権の希薄化や金融機関に株式保有を受け入れてもらう必要がある点です。

  • 第二会社方式:過剰債務で行き詰まった企業の中から、収益性の高い事業(グッド事業)だけを新設会社(第二会社)に移して継続させ、元の会社(旧会社)は不採算事業と過剰債務を抱えたまま清算する手法です。会社分割や事業譲渡を活用して優良事業を別会社に承継し、不要資産や債務は旧会社に残すスキームとも言えます。平成21年の産業活力再生特別措置法改正で、この第二会社方式による中小企業再生を支援する制度(中小企業承継事業再生計画の認定制度)も創設され、認定を受けた企業には税制措置など各種支援策が与えられるようになりました。第二会社方式のメリットは、想定外の債務リスクを切り離し易くなるためスポンサー(支援企業)や金融機関の協力を得られやすい点にあります。一方でデメリットは、旧会社に残された債権者にとって債権回収が困難になることや、従業員や取引先対応を二重に行う必要があるなど、法的・実務的に綿密な調整が求められる点です。

  • M&A(企業の譲渡・統合):外部の企業や投資家に自社事業を売却したり、他社と合併することで再建を図る手法です。自社単独では再建が難しい場合でも、財務基盤の強い企業に買収・支援してもらうことで事業の継続や雇用維持が可能になるケースがあります。例えば事業譲渡により第三者へ事業を引き継げば、売却代金で負債の一部返済ができ、経営者は廃業するにしても手間と時間を省いて整理できます (廃業とそれに伴う経営資源の引継ぎ - 中小企業庁)。M&Aのメリットは、事業や従業員が他社の下で存続できる可能性がある点や、経営者が一定の対価を得て撤退できる点です。デメリットは、買い手が見つからない場合も多いこと、希望する条件で譲渡できるとは限らないこと、社内外の理解調整が必要なことなどが挙げられます。

以上のような再生手法は、それぞれ適用の条件や利害関係者の同意条件が異なります。再生手段を選択する際は、自社の財務状況・再建可能性、利害関係者(金融機関・保証協会・株主・取引先など)の意向を踏まえて総合的に判断する必要があります。

公的支援制度として、中小企業の事業再生を支援する仕組みも整っています。国が各都道府県に設置した 「中小企業活性化協議会」 は、公正中立な立場で中小企業の 収益力改善事業再生、さらには 廃業・再チャレンジ といった経営課題に対する支援を行っています。具体的には、経営相談の窓口として専門家(金融機関OBや中小企業診断士、弁護士など)が経営者の相談に応じ、財務資料の分析や事業計画策定の助言を行います。協議会は相談企業の状況に応じて「収益力改善支援」「再生計画策定支援」「廃業・再チャレンジ支援」のいずれかが適当かを判断し、必要に応じて次の段階の支援へと進みます 。再生計画策定支援では、企業の事業計画を策定し、金融機関と調整しながらリスケ等の条件緩和や債権放棄など金融支援策も織り込んだ再生計画をまとめます。複数債権者との調整が必要な場合には、この協議会スキーム(いわゆる「多債権者調整型の私的整理」)が非常に有効です。

また、2022年には新たに 「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(通称「中小版GL」)が策定され、従来の協議会スキームや事業再生ADRなどの知見をもとに、中小企業向けの統一的な私的整理手続のルールが定められました ()。中小版GLでは、事業を継続するための 再生型手続 と、事業を停止・清算する 廃業型手続 の双方について、第三者支援専門家(認定支援機関等の中立的な専門家)の関与のもとで金融機関と合意形成を図る具体的手順が示されています (中小企業の事業再生等に関するガイドライン 令和6年1月一部改定)。事業再生を目指す企業にとって、このガイドラインに沿った私的整理手続を活用することは、金融機関との調整を円滑にし、破産などの法的手続に至らずに再建を図る有力な選択肢となります。


2.廃業という選択肢

廃業とは、事業主が自発的に事業活動を終了させることを指します(法的には会社の解散・清算手続や個人事業の廃止を含む広い概念です)。事業再生が困難と判断された場合や、後継者不在・市場縮小など将来的な事業継続の展望がない場合には、計画的な廃業によって被害を最小限に抑え、円満に事業を終えることも経営上の重要な決断となります 。ガイドライン上でも、収益力回復に努めてもなお赤字が続き資金流出が止まらないときには事業廃止(廃業)を検討すべきとされています。具体的には、スポンサー支援による事業譲渡等で継続の可能性があるか検討し、それも見込めない場合には早期に事業を停止し清算することが望ましい、との指針が示されています。

廃業には、経営者自ら計画を立てて円滑に進める 計画的廃業 と、資金繰り悪化により突然倒産に至るような 突発的廃業(事実上の倒産)があります。計画的廃業では、関係者への事前説明や各種手続きを踏まえて秩序立てて事業を畳むため、社会的な信用毀損や利害関係者への迷惑を最小限に抑えることができます。一方、何の準備もなく支払い不能に陥った場合の突発的廃業(夜逃げや倒産)は、従業員の解雇トラブル、取引先への債務不履行、信用保証協会経由の代位弁済発生など、多大な混乱と損失を招きます。したがって、事業継続が難しいと分かった段階でできる限り早く行動し、自主的かつ計画的な撤退を図ることが重要です。

廃業の基本的な流れとしては、以下のようなステップになります。

  1. 廃業計画の策定:まず経営者が廃業の意思を固めたら、いつまでに何を行うかという廃業スケジュールを作成します。事業停止の時期、在庫や資産の処分方法、従業員への対応、取引先への連絡、債務の精算方法などを整理し、具体的な計画書に落とし込みます。金融機関や保証協会との話し合いによって「廃業計画書」を作成するケースもあります ()。

  2. ステークホルダーへの説明:従業員や主要取引先、金融機関などに対し、廃業の方針と今後の予定をできるだけ早めに説明します。従業員には解雇通知や退職金・未払給与の支払計画を示し、再就職支援など可能な支援を検討します。取引先には、受注済みの仕事の完了や納品済み商品の代金支払いなど、債務履行に関する取り決めを行います。金融機関には今後の返済見通しや残債の整理方針について相談します。誠意ある説明と情報開示に努めることで、関係者の理解と協力を得やすくなります。

  3. 事業活動の停止:新規の受注や営業活動を停止し、現在進行中の業務を終了させます。在庫商品がある場合はセール等で現金化し、仕掛品や原材料も可能な範囲で処分します。資産については、事業に使っていた機械設備や車両、不動産などを売却またはリース解約し、換価できるものは債務返済原資に充当します。不要な資産の売却は時間がかかるため、廃業決断後できるだけ早期に着手します。

  4. 債務の整理:買掛金や借入金などの債務については、手元資金や資産売却代金で可能な限り返済します。すべての債務を完済できない場合は、金融機関との交渉により残債免除や分割弁済の合意を図ることになります(私的整理)。この際、「中小版GL」(中小企業の事業再生等に関するガイドライン)の廃業型私的整理手続を活用することで、第三者専門家の支援の下、複数債権者との間で円滑な債務整理の合意形成を行うことも可能です 。私的整理が難しければ、最終手段として法的整理(破産申立て等)により清算を行います。ただし法的整理はコストや時間もかかり、経営者の破産リスクも高まるため、できれば私的整理によるソフトランディングを目指すべきです。

  5. 法的手続と清算:法人の場合、最終的に会社の解散・清算登記を行い法人格を消滅させます。債務が残っている場合は特別清算や破産手続で精算します。個人事業主の場合は廃業届を税務署に提出し、事業廃止の手続きを完了します。税務申告や社会保険手続など、関係官庁への届出も漏れなく行います。法人税・消費税など未納の税金があれば納税または納税猶予の相談を行い、従業員の社会保険の資格喪失手続や公共職業安定所への大量離職届の提出(従業員が一定数以上いる場合)なども行います。

以上が概括的な廃業までの流れです。廃業には煩雑な手続きや費用が発生しますが、計画的に進めることでその負担を軽減することができます。また、近年では中小企業庁や金融機関も中小企業の円滑な撤退を支援する施策を打ち出しています 。例えば、信用保証協会による 「自主廃業支援保証制度」 では、事業者自らが計画的廃業を決断した場合に必要となるつなぎ資金(買掛金の決済や原状回復費用等)の調達を円滑に行えるよう、最大3,000万円の保証枠が用意されています。この制度を利用するには、債務超過ではないことや金融機関等と合意した廃業計画書に従って進めること等の条件があります 。こうした公的制度を活用すれば、廃業にかかる資金繰りの不安をある程度解消することが可能です。

さらに、金融機関との関係では、経営者個人が連帯保証人となっているケースが多いため「経営者保証に関するガイドライン」(経営者保証GL)の存在も重要です。通常、廃業しても会社債務の保証人である経営者には借金返済義務が残り、最悪の場合は経営者自身の破産にもつながります。しかし経営者保証GLの下では、経営者が誠実に事業清算と債務整理に協力し、自らも保有する資産を債務弁済に充当するなど一定の条件を満たせば、金融機関は残る保証債務について免除を検討することが期待されています。実際、2022年3月に公表された「廃業時における経営者保証ガイドラインの基本的考え方」以降、主たる債務者(会社)が廃業しても保証人が自己破産を回避できる道が広がりつつあります (廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方の改定について | 2023年 | 一般社団法人 全国銀行協会)。2023年11月の改定では、経営者が「退出」(廃業)を希望する場合に早期相談する重要性や、早期に廃業手続に着手することが保証人の残存資産の維持に資する可能性があることが明記されました。このように保証ガイドラインを活用した私的整理により、経営者は自己破産せずに残債務の整理(保証債務免除)を図れる可能性があります。経営者保証の問題は、経営者にとって事業再生の早期決断を妨げる要因とも指摘されてきただけに (「経営者保証に関するガイドライン」における廃業時の保証債務整理に関する参考事例の公表について:金融庁)、廃業時に経営者の再起を支援する枠組みが整えられてきた意義は大きいと言えます。

以上のように、廃業は決して「投げ出し」ではなく、適切に計画・実行すれば円満退職と再出発につなげることができます。重要なのは、事業継続が困難と感じた時点で専門家や支援機関に相談し、社会的な影響を最小限にする手段を講じながら撤退することです。


3.事業再生と廃業の判断基準

では、どのような基準で「事業再生」か「廃業」かを判断すればよいのでしょうか。経営者にとって事業を畳む決断は非常に勇気のいるものですが、適切なタイミングで方向性を決めないと、再建の機会を逃したり負債を無駄に拡大させたりするリスクがあります。以下に判断の視点となるポイントを整理します。

  • 1. 財務状況の客観的チェック:まず自社の財務状況を冷静に分析します。具体的には、最近の損益(赤字が続いていないか、改善傾向にあるか)、キャッシュフロー(営業キャッシュフローがプラスか、資金繰りは回っているか)、バランスシート(債務超過に陥っていないか、手元資金でいつまで持つか)といった指標を確認します。これらを踏まえ、今後1〜2年で黒字転換や債務圧縮の見込みがあるかを見極めます。仮に金融支援(リスケや追加融資)を受けてもなお赤字が継続し資金流出が止まらないようであれば、事業継続は困難なシグナルと考えられます。
  • 2. 事業の収益性・将来性:財務数値だけでなく、事業そのものの収益性や市場環境も判断材料です。自社の提供する商品・サービスに将来性があり、適切な改革を行えば収益改善が期待できるのか、それとも市場縮小や競争激化で事業モデル自体が限界に来ているのかを評価します。例えば主要取引先を失った、技術やノウハウが陳腐化した、後継者がいない、といった場合には抜本的に事業モデルを変える必要があります。その変革の余地があるかどうか、他社との提携やM&Aで活路が開けるか、といった視点で事業継続の可能性を検討します。再生できる余地が十分にある事業であれば、債務整理と並行して事業面の改革計画(新商品開発、業態転換等)を練る価値があります。一方、どう手を尽くしても将来的な黒字化シナリオが描けない事業であれば、延命よりも早期撤退による被害限定を優先すべきでしょう。
  • 3. 利害関係者の意向と信用への影響:事業再生を選ぶ場合も廃業を選ぶ場合も、金融機関や保証協会、主要取引先、従業員といったステークホルダーへの影響を考慮する必要があります。事業再生には時間がかかるため、その間の追加支援や猶予に関して関係者の協力が得られるか(銀行が融資継続やリスケに応じるか、取引先が待ってくれるか)が重要です。また、再生計画が失敗した場合には結局債権者にさらなる迷惑をかける可能性もあります。反対に廃業では、早めに債務清算することで債権者の損失を確定させることになり、場合によってはスポンサーへの事業譲渡により一部でも事業継続を図るなどの条件提示が必要になるかもしれません。いずれにせよ、主要な関係者と今後の方針について率直に話し合い、理解を得られる選択肢はどちらかを探ることが大切です。一般的には、金融機関は「事業継続が見込めるなら再生を支援、見込めないなら円滑な清算を支援」というスタンスを取ります。したがって、関係者との協議の中で再生の現実性についてフィードバックをもらうことも有益です。
  • 4. 経営者自身の状況:最後に、経営者や家族の状況・意向も無視できません。再生に向けては相当のエネルギーと覚悟が必要であり、事業を存続させることが経営者本人や家族にとって本当に最善かどうかも考えるべきです。高齢で後継者もおらず早期リタイアを望む場合や、健康上の問題でこれ以上の経営継続が難しい場合、あえて再生にこだわらず事業整理に専念する選択もあります。一方、若くて再チャレンジの意欲がある経営者であれば、一度廃業してから改めて新事業に挑む道(いわゆるセカンドスタート)も選択肢となるでしょう。公的機関も「再チャレンジ支援」として、廃業後の経営者の再出発をバックアップする体制を整えています 。経営者保証の問題も含め、経営者個人の人生設計に照らしてベストな道を選ぶことが重要です。

以上の観点から総合的に判断し、再生可能性が高いと判断した場合は事業再生に舵を切り、再生が極めて困難と判断した場合は廃業による被害最小化に踏み切ることになります。判断に迷う場合は、早めに中立的な専門家(中小企業診断士や再生支援協議会、金融機関OBの相談員など)に相談し、セカンドオピニオンを求めることをおすすめします。外部の視点を入れることで冷静な判断材料が得られ、自社だけでは見えなかった選択肢が見つかることもあります。


4.事業再生の主要手法

ここでは、事業再生を進めるにあたって代表的な金融支援策・再建スキームの特徴を比較表でまとめます。再生局面においては複数の手法を組み合わせて活用することも多く、企業の状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。

企業の再建手法とそのメリット・デメリット

手法 メリット デメリット
リスケジュール(返済条件緩和) - 毎月の資金繰りに余裕が生まれ、再建計画の実行がしやすくなる。- 手続きが比較的簡便で、金融機関も対応しやすい(条件変更のみ)。 - 根本的な負債削減にはならず、抜本的な再建策には不向き。
DDS(デット・デット・スワップ) - 一時的に返済負担が軽減し、資金繰りが改善。- 債権放棄より金融機関に受け入れられやすく、中小企業でも活用例あり。 - 将来的に元本返済が必要であり、根本的な負債解決には至らない。
DES(デット・エクイティ・スワップ) - 負債を純資産に変換することで財務基盤が大幅に改善。- 返済不要のため、将来の負担が軽減。 - 既存株主の持ち株比率が低下し、経営権に影響を与える可能性がある。
債権放棄(デットカット) - 借入金そのものが減少するため、再建後の負担がゼロになり、財務的に安定。 - 金融機関にとって大きな損失となるため、交渉のハードルが高い。- 債務免除益により課税問題が発生する可能性あり。
第二会社方式 - 事業を分割して健全な部分のみを別会社として存続可能。 - 手続きが複雑で時間を要する。- 取引先や従業員の理解が必要。
事業譲渡・M&A - 他社の資金力・経営資源を活用し、事業や雇用の存続可能性が高い。- 経営者にとっては借入返済や従業員の処遇に関する責任を果たしやすい。 - 買い手が見つからなければ成立しない。- 事業価値が低い場合は譲渡価格が低くなり、負債完済に至らないこともある。- 買収後の統合作業が失敗すると、業績悪化や取引先の離反リスクがある。

上記のように各手法には一長一短があります。多くの場合、リスケで時間を稼ぎつつ事業の立て直しを図り、必要に応じてDDSや債権放棄で債務圧縮を行うといった複合的なアプローチが取られます。また、事業の切り離しや譲渡(第二会社方式やM&A)については、金融支援と組み合わせて実施するケースもあります。金融機関との交渉にあたっては、再生計画の妥当性・公平性が重要です。債権者間の公平を図るためにバンクミーティング(複数金融機関との同時協議)を開催し、情報共有と支援の足並みを揃えることも有効です 。公的な中小企業活性化協議会を利用すれば、こうしたマルチステークホルダーの調整を中立的立場でサポートしてもらえます。

また、金融支援策以外にも、中小企業再生では以下のようなポイントが再建成功の鍵を握ります。

  • 経営改革の断行:単に債務を軽くするだけでなく、事業構造の改革(不採算事業の縮小、固定費削減、新規顧客開拓など)を同時に進める。
  • 経営陣の刷新や支援人材の登用:必要に応じて社長交代や外部人材(ターンアラウンドマネージャー)の招聘を検討し、再建の推進力を高める。
  • 適切な法的手続の選択:私的整理でまとまらない場合は民事再生法の適用も視野に入れる。民事再生ではスポンサーからの出資受け入れ等もしやすくなる。
  • ステークホルダーへの丁寧な説明:再建過程での痛み(債権放棄要請等)について、金融機関だけでなく取引先や社員にも状況と再建計画を丁寧に説明し、協力を仰ぐ。

事業再生は「会社を延命させること」自体が目的ではなく、「会社を良くすること」が目的です。将来性ある事業を守り、雇用を維持し、債権者にも将来的な返済を果たすための前向きなプロセスと言えます。そのためには経営者の強い意思と周囲の協力が必要不可欠です。公的支援制度や専門家の力も借りながら、最善の再生スキームを構築することが重要です。


5.廃業の進め方

次に、廃業を決断した場合の具体的な進め方と留意点を解説します。上記「廃業という選択肢」の章でも触れたとおり、計画的に廃業プロセスを踏むことで関係者への悪影響を抑え、経営者自身も次のステップに備えることができます。以下、廃業手続を進める上でのチェックポイントを整理します。

  • 専門家への早期相談:廃業を決めたら、まずは弁護士や中小企業診断士、地域の企業支援センターなどに相談しましょう。特に負債が残る見込みの場合、債務整理の方針について専門家のアドバイスを受けることが重要です。中小企業活性化協議会の「再チャレンジ支援」は、相談無料で弁護士等が現状分析し円滑な廃業や保証債務整理について助言してくれる心強い制度です。必要に応じて協議会から専門の弁護士を紹介してもらい、二人三脚で廃業手続きを進めることもできます 。

  • 従業員対応:従業員がいる場合、解雇に関する法的手続(30日以上前の解雇予告もしくは予告手当の支払い)が必要です。離職票の交付や未払給与・退職金の精算も確実に行います。中小企業の場合、経営者との距離が近い分、廃業決断に至る事情を率直に説明し誠意を持って対応することで、従業員も理解を示しやすくなります。可能であれば再就職先のあっせんやハローワークへの同行など、最後まで責任を持って対処することが望ましいでしょう。

  • 取引先対応:仕入先や顧客などの主要取引先には、今後の取引停止や契約解除について早めに連絡します。仕入先に対しては未払い代金の支払い計画を提示し、在庫品の返品や発注キャンセルなど協議すべき事項を整理します。顧客に対しては受注済み案件の履行可否を伝え、代替手段(他社紹介など)が必要なら提案します。特に長年取引のある先ほど衝撃も大きいので、直接訪問して謝罪・説明するくらいの丁寧さが望まれます。誠実に対応すれば、取引先も債権回収面で協力(分割払いを認める等)してくれる可能性が高まります。

  • 資産と債務の洗い出し:廃業時には会社(または事業主)の全資産・負債をリストアップし、どのように清算するか計画を立てます。現預金や売掛金、在庫、固定資産など資産の処分見込み額を算定し、それを元に支払うべき負債(買掛金、借入金、未払費用など)との突き合わせを行います。この時点で債務超過か否か、完済可能か否かが明確になります。完済が難しい場合はどの債務から優先して支払うか検討し、不足分については私的整理手続で免除をお願いする対象となります。債権者平等の観点から、特定の債権者だけ優遇して支払うことは避け、公平に手当てするよう注意が必要です。

  • 債務整理手段の選択:債務超過であったり借入の残債が大きかったりする場合、私的整理か法的整理かを選ぶ必要があります。私的整理(任意整理)は、前述の中小版ガイドラインの廃業型手続経営者保証ガイドラインを活用しつつ、金融機関との合意により残債務の免除や分割返済を取り決める方法です。メリットは手続が非公開で柔軟、かつ経営者の破産を回避しやすい点にあります。一方、複数の金融機関の同意形成が得られない場合は法的整理(破産手続開始の申立て等)も検討します。法的整理になると裁判所主導で強制的に清算が行われ、債務は原則として残りませんが、経営者は破産者となり一定期間の経済活動制限などの不利益を被ります。経営者保証GLを遵守していれば、破産せずに済む余地があるので最後まで粘る価値がありますが、それでも難しければやむを得ず法的手続による清算となります。

  • 各種届出と手続:実務的な細かい手続きも漏れなく行います。法人の場合、株主総会での解散決議→清算人選任→債権者保護手続公告→残余財産分配→清算結了登記という一連の法定プロセスがあります。これらは司法書士等に依頼可能です。また税務上は、廃業時の確定申告(法人税・所得税)や消費税の申告、地方税の申告などが必要です。社会保険・労働保険についても、資格喪失や事業廃止の届出を関係各所(年金事務所、労基署、ハローワーク等)に提出します。事業許認可を持っている業種では、監督官庁への廃業届出も必要になります。さらに銀行口座の解約、リース契約の解約、電話・インターネット回線の解約など細かな事務処理も発生します。チェックリストを作成し、一つ一つ確実に処理していくことが大切です。

以上が廃業の具体的進め方です。廃業プロセスは経営者にとって精神的にも負担が大きいものですが、近年は公的支援策の充実により「軟着陸」しやすい環境が整ってきました。廃業を選択したからといって、決して経営者人生が終わるわけではありません。むしろ不採算事業から早期に撤退し、英気を養って新たなチャレンジに備えることは、次の成功へのステップともなり得ます。事実、多くの起業家が一度目の事業失敗を糧に再挑戦し成功を収めています。政府も「再チャレンジ支援」の名の下、事業整理後の再起を後押ししています 。例えば、日本政策金融公庫などでは元倒産企業の経営者に対する融資の門戸を広げたり、各地の創業支援策でも失敗経験者の応募を歓迎する動きがあります。

大切なのは、廃業をネガティブに捉えすぎず、次につなげる前向きな選択肢と位置付けることです。そのためにも、早いうちに専門機関へ相談し、使える支援は最大限活用することを心がけましょう。例えば各地域の商工会議所や中小企業支援センターには、事業承継・引継ぎや事業再生・廃業支援の専門家が在籍しています。彼らとの連携により、地域のネットワークを活用したスムーズな廃業・再スタートが実現できる可能性があります。


6.Q&A(よくある質問)

Q1. 事業再生と廃業のどちらにすべきか悩んだとき、まず何をすべきですか?
A. 最初にやるべきことは、現状の客観的な把握第三者への相談です。自社の財務諸表や事業環境を冷静に分析し、専門家に見てもらうことで、再生可能性があるのか撤退すべきかの方向性が見えてきます。自社だけで判断が難しい場合、早めに中小企業活性化協議会や商工会議所の経営相談窓口、金融機関の企業支援部署などに相談しましょう。公的な相談窓口では無料で現状分析やアドバイスを受けられます。特に事業継続に未練がある場合でも、第三者の意見を聞くことで現実的な選択肢を検討しやすくなります。自社にどんな支援策が使えるか(協議会の再生支援か再チャレンジ支援か等)も含め、専門家と一緒にシミュレーションすることをお勧めします。

Q2. 事業再生を決断した場合、専門家に依頼する適切なタイミングはいつですか?
A. できるだけ早い段階で専門家を巻き込むことが望ましいです。特に金融機関との交渉や法的整理を避ける私的整理を検討する場合、弁護士や認定支援機関(中小企業診断士・会計士等)の力が不可欠です。再生計画の策定時点から第三者専門家に入ってもらえば、計画の実現可能性や債権者調整の見通しについてプロの視点でブラッシュアップできます 。中小企業活性化協議会を利用する場合は、協議会が外部専門家(第三者支援専門家)をアサインしてくれるので、早期に相談して支援チームに入ってもらうのが良いでしょう。リスケの交渉程度であれば自社だけでも可能かもしれませんが、複数の金融機関との調整債務減免交渉が必要になる局面では、専門家抜きでは困難です。時間が経つほど資金繰りは悪化し専門家費用を捻出するのも難しくなるため、「再生する」と決めたら早めに信頼できる専門家に声をかけるべきです。

Q3. 廃業する際に残った借金(保証債務)はどうなりますか?
A. 残債務の扱いはケースバイケースですが、経営者が連帯保証している借入金が残った場合、基本的には経営者個人が返済義務を負います。会社を畳んでも保証人からの回収は続くため、多くの経営者は自己破産を検討せざるを得なくなります。ただし、ここで役立つのが「経営者保証に関するガイドライン(経営者保証GL)」です。経営者保証GLに沿って誠実に手続きを踏めば、金融機関が保証人の残債務免除に応じてくれる可能性があります。具体的には、経営者が保有する個人資産を原則処分・提供し、債権者に最大限配当した上で、なお残る債務については金融機関が免除を検討します。これが実現すれば、経営者は自己破産を回避できます。もちろん債権者の同意が必要なので絶対ではありませんが、現在この枠組みが各金融機関で積極的に活用され始めています。したがって、廃業時に借金が残る場合でもすぐに破産せず、まずは保証ガイドラインを活用した私的整理(廃業型手続)を検討するのが得策です。信用保証協会付き融資の場合も、保証協会に対し代位弁済後の求償権放棄(保証人に請求しないこと)をお願いすることになりますが、この点もガイドラインに基づき対応されるケースが出てきています。要は、適切な手続きを踏めば「会社は消滅しても経営者は借金地獄に陥らずに済む」道が開けています。専門家の助力を得てベストな債務整理策を模索しましょう。

Q4. 金融機関にリスケ(返済猶予)を申し込む際のポイントは?
A. リスケ交渉のポイントは大きく3つあります。第一に「早めに相談する」ことです。資金繰りが苦しくなって返済に窮する直前ではなく、余裕があるうちに金融機関に事情を説明し、計画的な条件変更をお願いする方が印象が良く、応じてもらいやすくなります 。第二に「原因と改善計画を示す」ことです。ただ「返済が苦しいから待ってください」というだけでは銀行も納得しません。なぜ業績が悪化したのか、その原因に対して今後どう改善策を打つのかを具体的に説明し、将来の見通しを示す必要があります。例えば、「新製品の投入で◯年後には売上回復見込み」「固定費削減で収支改善予定」など、数字を交えて計画を提示しましょう。必要書類として過去の決算書や試算表、資金繰り表、借入金一覧表なども求められます 。第三に「誠意を持って接する」ことです。返済条件の緩和は本来契約違反のお願いでもありますので、経営者として深く反省しつつ、しかし事業を立て直す意思は強く持っていることを伝えます。金融機関も取引先企業を簡単に潰したいわけではないので、将来性が感じられれば協力してくれるでしょう。リスケは通常6か月から最長1年程度が一区切りです 。その間に経営改善を実現し、計画通り返済を再開できれば信用も回復します。逆に猶予期間中の約束(業績目標など)を守らないと追加支援は難しくなるので、現実的な計画を立てることも重要です。

Q5. 廃業を決めた後、最初に進めるべき手続きは何ですか?
A. 廃業を決断したら、「誰にいつ何を伝えるか」の計画を立てることから始めましょう。特に従業員と金融機関への対応が最優先です。従業員には解雇予定日や条件を早めに通知しなければなりませんし(労働基準法上の義務)、金融機関には今後の返済について相談・調整が必要です。したがって、まずは主要ステークホルダーへの説明準備を行います。その際、廃業のタイミングや大まかな段取りを示す廃業計画(工程表)を作成しておくと話がスムーズです ()。例えば「○月末で営業停止、○月中に在庫処分、○月〜○月で債務整理交渉、○月に解散登記」などのスケジュールを作り、それに沿って動き出します。計画策定と並行して、必要であれば専門家に連絡します。特に債務超過や保証債務の問題がある場合、弁護士への早期相談が望ましいです(協議会経由で紹介も可能)。以上をまとめると、廃業決定後の第一歩は(1)廃業計画を立てること、(2)キーパーソン(社員・金融機関など)への説明を開始すること、となります。その後の細かい手続きは計画に従って順次進めればよいので、まずは初動を素早く行うことが肝心です。


7.まとめ

事業再生にせよ廃業にせよ、早めの判断と行動が被害を最小にし、再起の可能性を高める鍵となります。業況が悪化してから時間が経てば経つほど打てる手は限られ、利害関係者の信頼も損なわれてしまいます。今回見てきたように、中小企業には事業再生を支援する仕組み(中小企業活性化協議会による再生支援や中小版ガイドラインの私的整理スキーム等)や、廃業をソフトランディングさせる仕組み(経営者保証ガイドラインや自主廃業支援制度等)が充実しつつあります。それら公的支援策を積極的に活用し、適切なプロセスを踏むことで、再生も廃業も決して怖れるべきものではなくなっています。

特に廃業については「経営破綻」「社会的な失敗」というネガティブなイメージが付きまといがちですが、実際には前向きな撤退として評価されるケースも増えています。無理に事業を続けて周囲に迷惑をかけるより、早期に決断して債務整理と再スタートに取り組む方が、結果的に社会的コストは小さくて済みます ()。金融庁も2023年度の重点施策として「社会経済情勢の変化に対応した事業者支援の推進」を掲げ、金融機関に対し事業者の円滑な再生・退出支援を求めています 。つまり、再建できる企業は再建を、退くべき企業は円滑に退くという方針が共有されつつあります。

各地域でも、こうした動きを踏まえて専門家ネットワークの強化や事業承継・引継ぎ支援センター等との連携が進んでいます。地域の商工団体や金融機関とも協力しながら、自社にとって最善の道を選択してください。事業再生を選ぶにせよ廃業を選ぶにせよ、次のステップに繋げる意識を持つことが大切です。事業再生なら再成長への第一歩、廃業なら新たな挑戦への準備期間と捉え、前向きに取り組みましょう。

最後に、経営者が苦境において孤立しないことが何より重要です。困ったときは一人で抱え込まず、遠慮なく周囲の力を借りてください。本記事で紹介した各種ガイドラインや支援制度、公的機関の相談窓口などをフルに活用し、適切なプロセスで事業再生または廃業を進めることで、きっと納得のいく結末と新たな未来への道筋が見えてくるはずです。企業の命運を左右する大きな決断だからこそ、慎重かつ的確に対処していきましょう。皆様の健闘と再チャレンジを心から応援しています。

次回は「事業再生を目指す際の経営者の心構え」について詳しく解説します。再生に向けて経営者が持つべき心構えや具体的な行動についてご紹介しますので、ぜひご覧ください。

本シリーズの全体像や他の関連テーマについては、ぜひ【事業再生・廃業ガイド 記事シリーズ】をご覧ください。

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