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第5回:事業再生のためのスキームと戦略

第5回事業再生のためのスキームと戦略

事業再生は、経営の危機を乗り越え、企業の持続的な成長を取り戻すための重要なプロセスです。資金繰りの改善、債務圧縮、事業の再編など、多様なスキームを適切に活用することが成功の鍵となります。本記事では、主要な事業再生手法、金融機関との交渉戦略、公的支援制度の活用方法を詳しく解説し、成功に導くポイントを整理します。


想定読者

  • 事業再生を検討している中小企業経営者
  • 金融機関との交渉を進める必要のある経営者
  • 事業再生の手法を学びたい経営コンサルタント・専門家

この記事のゴール

  • 事業再生の代表的なスキームを理解する
  • 事業の状況に応じた適切な手法を選択できるようになる
  • 事業再生を成功させるための交渉ポイントを学ぶ

目次


1. 事業再生スキームの全体像

事業再生の定義と必要性: 事業再生とは、経営が悪化した企業が倒産を回避し再成長を目指すために行う経営再建の取り組みです。決して企業が取る「最後の手段」ではなく、どんな企業にも起こり得る経営不振の局面を乗り越えるための“経営手法”の一つと定義されています ()。近年の経済環境では、円安や物価高などの影響で中小企業の倒産件数が増加傾向にあり、2024年6月には倒産件数が820件(前年同月比増加)と9年ぶりに800件台に達しました。こうした状況から、中小企業にとって早期の事業再生への着手と柔軟な対応がますます重要になっています。

日本国内の中小企業における動向: 日本ではリーマンショック以降、中小企業金融円滑化法や公的支援制度の整備により、一時倒産件数が低水準に抑えられてきた時期もありました。しかしコロナ禍を経た現在は、政府の支援策終了やコスト増の影響で事業環境が厳しくなり、多くの中小企業が資金繰りの悪化に直面しています 。そのため「事業再生」に関する知識やスキームの活用ニーズが高まっており、2022年には**「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」**が策定されるなど、中小企業向けの再生支援ルールも整備されました。事業再生は延命ではなく企業を再生長軌道に戻すプロセスであるという認識が広まりつつあります。

金融機関や専門家の役割: 事業再生を成功させるには、メインバンクをはじめとする金融機関の協力と、外部専門家(経営コンサルタント、弁護士、会計士など)の助言が不可欠です。金融機関は債権者として債務条件の緩和や追加融資などの金融支援を検討しますが、その際には客観的な事業計画と財務分析が必要になります。専門家は経営改善計画の策定や利害調整で重要な役割を果たし、公正中立な立場で企業と金融機関の橋渡しをします。日本では各都道府県に中小企業活性化協議会(旧中小企業再生支援協議会)が設置されており、地域のハブ機関として金融機関・専門家と連携し「収益力改善・事業再生・再チャレンジ」をワンストップで支援しています。このように公的機関や専門家の伴走支援を受けながら、金融機関と協調して再生を進める体制が整えられています。


2. 主要な事業再生手法

ここでは代表的な事業再生スキームを紹介します。企業の状況に応じて、これらの手法を単独または組み合わせて活用することで再建を図ります。

  • リスケジュール(リスケ):借入金の元本返済や金利支払いの条件を見直し、一時的に返済負担を軽減する手法です。金融機関と合意し、一定期間元金据置(利息のみ支払い)や返済期間延長を行います。リスケによって毎月の資金繰りを改善しつつ、その間に経営改善策を実行します。ただしリスケには金融機関の承諾と信頼関係が不可欠であり、実施には具体的な経営改善計画の提出が求められます。リスケ期間中に根本的な収益改善を図り、終了後に正常返済へ戻すことが目標です。

  • DDS(Debt Debt Swap):債務と債務の交換(デット・デット・スワップ)と呼ばれる再生手法です。金融機関が既存の貸付金の一部を、劣後ローン(返済順位の低い融資)に切り替えることで実施します (DESとDDSの違いについて教えてください。 | ビジネスQ&A | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト])。DDSでは債務そのものを株式にはしない点が特徴で、企業は最終的にその借入金を返済する義務が残ります。しかし返済順位が劣後する資本性ローンとすることで、会計上は負債のままでも実質的には自己資本に近い扱いとなり、債務超過の解消や当面のキャッシュフロー改善が図れます。金融機関にとっても債権が最終的に返済される見込みが残るため、債務を株式化するDESより応じやすいメリットがあります。ただしDDS後に経営改善が進まなければ返済猶予が切れた時に再度行き詰まるリスクもあり、実行には将来の業績見通しを慎重に見極める必要があります。

  • DES(Debt Equity Swap):債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)とも言われ、借入金の一部を株式に転換することで債務を圧縮する手法です。金融機関や債権者に借入金の帳消しと引き換えに会社の株式を引き受けてもらう形となります。借入金が資本に置き換わるため、その分の元本返済や利息支払いが不要になり、キャッシュフローが改善します。また債務が資本に転換され自己資本比率が向上するため、財務体質の安全性は会計上大きく改善します。一方で既存株主の持株比率は希薄化し、金融機関が株主になるケースでは経営関与の問題も生じます。また債務免除益が発生して課税リスクが生じる点にも注意が必要です。中小企業の場合、金融機関が株主になることには慎重であるため、DESは主にオーナー社長が自分への債務を資本化する場合などに用いられる傾向があります。手続面でも新株発行などが必要でDDSより難易度が高いものの、抜本的に債務超過を解消できる強力な手段です。

  • 第二会社方式:中小企業活性化協議会などでも活用される手法で、いわゆる「新旧分離」による再生スキームです。まず健全な事業資産や収益部門を承継する新会社(第二会社)を設立し、そちらに事業を移転します。一方、旧会社には過剰債務や不要資産を残し、最終的には特別清算や破産手続で旧会社を整理します。新会社はスポンサー企業や投資家から出資や支援を受けて再スタートを切る形となり、旧債務から解放された事業を継続できます。第二会社方式のメリットは、事業そのものは途切れず雇用や取引を維持できる点にあります。債務処理は法的整理を伴うため金融機関には債権放棄など痛みが伴いますが、再生スキームとして事前に関係者の合意を得て実行されます。中小企業でもスポンサーが見つかりやすい業種や事業価値が高い場合に有効な方法です。

  • 事業譲渡・M&A:苦境に陥った事業の全部または一部を第三者に譲渡することで再建を図る手法です。買い手(譲受企業)にとってシナジーのある事業であれば、負債ごと会社を引き受ける買収よりも事業譲渡で必要な事業資産のみ取得する方が魅力的な場合があります。譲渡された側の企業は対価を得て債務返済に充てたり、場合によっては清算します。M&Aによる再生は、事業が他社の下で存続できるため従業員や取引先にも継続性の点でメリットがあります。中小企業では地域の有力企業がスポンサー的に事業譲渡を受けるケースや、競合他社が買収するケースなどがあります。適切な買い手を見つけることが鍵ですが、マッチすればスピーディーに事業を再生できる手段です。

  • スポンサー型再生:外部の企業(スポンサー)から資金提供や経営支援を受けて再建を目指すスキームです。スポンサーは金融機関とは限らず、同業他社や投資ファンド、地域の有力企業など多様です。スポンサーから出資を受けて増資する、または事業譲渡先になってもらう形で関与してもらいます。スポンサー企業の持つ経営資源(資金、人材、ノウハウ、販路など)や信用力を活用できるため、再生の成功率が高まります 。特に経営力の優れたスポンサーほど事業再生の後押しとなるでしょう。一方でスポンサー側の経営戦略に事業が組み込まれるため、経営権の移譲や自主性の制約が発生します。またスポンサー選定に時間を要する場合もあるため、早めの着手が必要です。スポンサー型再生は単独では困難な再建において、有力な再生の道筋を提供する手法です。


3. 各スキームのメリット・デメリット

各手法には利点と留意点があります。自社の状況に照らし、以下のようなメリット・デメリットを考慮して選択します。

  • リスケジュール:迅速に毎月の返済負担を減らせるため資金繰りは格段に改善します。金融機関にとっても比較的応じやすい支援策ですが、信用格付けに影響する可能性があり長期化は望ましくありません。またリスケ後に抜本策を実行しないと問題の先送りになるリスクがあります。金融機関の同意が前提であり、計画未達の場合は信用低下を招きます。

  • DDS/DES:いずれも過剰債務の圧縮手段として有効で、短期的な財務負担軽減効果があります。DDSは形式上負債を残すため税務面の問題は起こりにくく、銀行も債権放棄しない分受け入れやすい利点があります。ただし劣後ローンとして債務が残る以上、業績回復が計画どおり進まないと結局返済不能に陥りかねません。DESは帳簿上で債務が純資産に転換され自己資本が増強されるメリットが大きいです。しかし金融機関が中小企業の株主となるケースは限定的で、実施には既存株主の持分希薄化や税務リスクといったデメリットも伴います 。また銀行等債権者の同意や法的手続きのハードルもDDSより高い点に注意が必要です。

  • 第二会社方式:事業の継続性を確保しつつ不良債務を切り離せるため、従業員や取引先への影響を最小限にできます。スポンサーから新会社に資本投入を受けることで、設備投資や運転資金も確保しやすくなります。反面、旧会社の債権者には債権放棄や清算配当といった不利益が及ぶため、調整が難航する場合があります。法的整理(特別清算など)とセットになるため時間と費用がかかり、全てのケースで採用できるわけではありません。主要取引銀行など関係者の理解と協力が不可欠です。

  • M&A(事業譲渡):事業価値を認める第三者がいれば、会社としては債務超過でも事業単位で救済できる可能性があります。譲渡により多額の債務や過去のしがらみから切り離されるため、新しい環境で事業が発展するチャンスが生まれます。買い手にとっても有望な事業を安価に取得できるメリットがある一方、負債全部を引き受ける形の企業買収(いわゆるスポンサー型M&A)は慎重に判断されます。適切なマッチングが成立しないと実現しない点がデメリットですが、公的支援機関やM&A仲介会社を通じて相手を探す取り組みが有効です。

  • スポンサー型再生:資金提供だけでなく、スポンサー企業のノウハウ・信用力を活用できる点で再生成功の可能性が高まります。特に自社に不足している営業力や技術力を補完できるスポンサーを得られれば、単独再建よりも短時間で業績回復が見込めます。デメリットとしては、スポンサー側の意向に戦略が左右されるため自社の経営自主性が制限されることがあります。またスポンサー探しに失敗すると時間を浪費し、再生の機を逃すリスクもあります。スポンサー候補との交渉では、企業価値の評価や再建後のビジョンを共有することが重要です。


4. 事業再生のための金融機関との交渉戦略

事業再生を円滑に進めるには、金融機関との交渉力が鍵を握ります。以下に金融機関と交渉する際のポイントをまとめます。

交渉前の準備: まず、自社の財務状況と事業の実態を客観的に分析し、**実現可能な再生計画(事業計画)**を綿密に策定します。債務のリスケやDDS/DESなど具体的にどのスキームを適用するか方針を定め、必要資金や採算見通しを数字で示します。こうした事前準備が交渉の成否を左右する重要な要素となります。特に金融機関は「この会社を支援すれば立ち直る」という根拠を求めるため、根拠ある計画を示すことが不可欠です。また主要行(メインバンク)との事前相談も有効です。メインバンクの理解を得られれば他行も追随しやすくなるため、まずは取引の深い銀行に計画を説明し協力を取り付けましょう。

用意すべき資料: 金融機関に提出する代表的な資料は、経営改善計画書(事業再生計画書)や資金繰り表、損益シミュレーション、借入一覧表、担保一覧などです。過去数年分の財務諸表や試算表も求められます。再生計画書には今後の事業戦略、コスト削減策、資産処分計画、返済原資の見込みなどを盛り込み、具体的かつ測定可能な目標を記載します。金融機関は提出資料をもとに債権放棄や追加融資の妥当性を検討するため、不明点のないよう丁寧に作り込みます。特に資金繰り表は、リスケ後も含めて「いつ資金ショートを解消できるか」を示す重要資料です。説得力ある資料は交渉を有利に進める武器となります。

金融機関の視点と期待値: 銀行など債権者は「債権を回収できる可能性がどれだけ高まるか」を重視します。そのため、再生スキームの選択においても金融機関が受け入れやすい形を模索することが大切です(例えば中小企業では銀行が株主になるDESよりDDSの方が受け入れられやすい。また担保の処分価値や他の一般債権者への公平性にも目を配ります。銀行内部の審査ではリスケやDDS/DESによって財務指標(自己資本比率やキャッシュフロー)がどう改善するかがチェックされますが、形式上DDSは負債のままなので実質的改善と帳簿上の改善に差異が出る点も理解しておきましょう。金融機関は基本的に「今後も取引を続けたい」と思える企業を支援します。そのため経営陣の熱意や計画遂行能力、情報開示姿勢など定性的な部分も含め評価しています。

交渉を円滑に進めるポイント: 交渉では誠実で迅速な対応が何より重要です。資金繰りが苦しい状況であっても、事実を正直に伝えごまかさない姿勢が信頼につながります。勇気のいることですが「資金繰りが厳しい」と率直に状況を開示する方が、金融機関は支援策を検討しやすくなります。逆に粉飾や虚偽が発覚すれば信頼を損ない交渉は破綻しかねません。金融機関担当者も人間ですので、日頃から誠意あるコミュニケーションを心がけ、計画の進捗や業績見込みを随時報告して信頼関係を築きましょう。また交渉の場には可能な限り専門家の同席を検討します。経験豊富な弁護士・中小企業診断士・会計士等がいると、金融機関との専門的な議論をリードし客観性も担保できます。複数の金融機関に対しては、調整役として中小企業活性化協議会等の公的機関を利用するのも効果的です。万一交渉が難航した場合の代替策(例えば事業再生ADRや法的整理への移行など)も頭に入れつつ、粘り強く合意形成を図ることが大切です。


5. 公的支援制度と活用方法

中小企業の事業再生に際しては、公的な支援制度やガイドラインも積極的に活用できます。ここでは主な支援策を紹介します。

  • 中小企業活性化協議会の支援: 国が47都道府県に設置した公的機関である「中小企業活性化協議会」は、収益力改善や事業再生、円滑な廃業・再チャレンジまで幅広い経営課題に対して無料の支援を行っています (中小企業活性化協議会による支援 | 経営にお悩みの方へ | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構)。具体的には、専門家チーム(金融機関OB、弁護士、公認会計士など)が企業とともに経営課題を分析し、再生計画策定のアドバイスや金融機関との調整支援を実施します。活性化協議会の支援は段階的に行われ、「収益力改善支援」(1~3年の事業計画策定支援)や「事業再生支援」(金融機関との調整を含む再生計画策定支援)、さらに「再チャレンジ支援」(事業継続が困難な場合の円滑な退出支援)に分類されます。公正中立な第三者機関として、秘密を厳守しつつ企業と金融機関の間に立って調整してくれるため、債権者交渉に不安がある経営者は早めに相談すると良いでしょう。

  • 経営者保証ガイドラインの活用: 中小企業の融資では経営者の個人保証が慣行となっていますが、これが経営者の思い切った事業展開や早期の再生判断を妨げる一因ともなっていました。そこで制定されたのが「経営者保証に関するガイドライン」です。このガイドラインは、一定の要件(経営者が私財を投入し適切な経営を行っていた等)を満たす場合に、金融機関が借入債務の整理時に経営者保証を免除・緩和するための指針を示したものです (経営者保証ガイドライン | 中小企業向け融資に関する相談窓口 | 一般社団法人 全国銀行協会)。たとえば事業再生に取り組み会社が債務超過を解消できないまま清算する場合でも、ガイドラインの条件を充たせば経営者個人が破産せずに済む可能性があります。実際に活用するには取引金融機関の同意が必要ですが、真摯に経営改善に努めた中小企業経営者が再チャレンジしやすくなるよう支援する制度です。事業再生計画を金融機関と協議する際には、このガイドライン適用についても相談してみる価値があります。

  • 中小企業版私的整理ガイドライン: 前述のように2022年4月から「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(中小企業版私的整理手続ガイドライン)が施行されました。これは中小企業の実情に即した私的整理手続きを定めたもので、裁判所を介さない債務整理を円滑に行うためのルールブックです。従来の「私的整理に関するガイドライン」(主に大企業向け)との違いとして、中小企業向けに簡素で利用しやすい手続きが整備されています。第三者専門家(認定支援機関等)が関与し、金融機関はガイドラインに則った再生計画に合意すれば債権放棄等に応じることになります。法的整理によらず債務減免や債務者企業の再建を図れるため、金融機関との合意形成を助けるツールとして注目されています。中小企業活性化協議会でもこのガイドラインを活用した支援を行っており、適用ケースでは経営者保証ガイドラインと組み合わせて経営者の再出発を支援する仕組みも用意されています。

  • 事業再生ファイナンスの活用: 事業再生には追加の資金調達が必要になる場合があります。いわゆる「DIPファイナンス」(事業再建中の融資)を得られれば在庫仕入れや設備投資を継続でき、再生計画の実現可能性が高まります。公的金融機関では日本政策金融公庫が提供する資本性劣後ローンなど、返済順位が後回しになる長期ローンの商品があります。この資本性ローンは一定の条件を満たせば銀行から自己資本とみなされ、信用力強化につながるため有効です。また信用保証協会による「経営改善貸付保証制度」等を利用し、新たな運転資金を調達することもできます。スポンサー型再生の場合はスポンサーからの投資資金がファイナンスの役割を果たします。事業再生計画には資金繰り計画も不可欠ですので、公的制度融資や保証制度を調べて上手に資金繰りを組み立てましょう。


6. 事業再生の成功事例と失敗事例

成功事例:リスケジュールとスポンサー型再生の併用による再建
ある製造業のA社は売上低迷で資金繰りが悪化し、複数行からの借入返済が困難になっていました。A社は早期にメインバンクへ相談し、金融機関との協議の下でまずリスケジュールを実施。1年間元本据置の猶予を得て、その間に抜本的な経営改革に着手しました。同時に事業提携先を探し、幸い業界内の中堅企業B社がスポンサー候補として名乗り出ました。B社は経営ノウハウと資金支援を提供し、A社の新製品開発や販路拡大をバックアップしました。その結果、A社は1年後に営業黒字化を達成し、スポンサーからの資本参加も受けて財務基盤を強化。リスケ期間終了後には返済を再開できるまでに業績が回復し、金融機関も協調融資で追加支援を行いました。スポンサーの経営資源を取り込んだことが奏功し、事業再生に成功したケースです。この例では銀行との信頼関係維持と並行してスポンサーを確保した点がポイントであり、再生スキームの柔軟な組み合わせが功を奏しました。

失敗事例:DDS実行後の経営改善遅れによる再生失敗
機械部品メーカーのC社は過大な設備投資の借入が重荷となり、業績悪化から債務超過に陥りました。主力銀行は私的整理による再建を支援し、C社に対してDDS(債務の劣後ローン化)を実施します。これにより一時的に債務超過は解消し、年間返済額も大幅に圧縮されました。ところがC社は債務返済猶予で得た余裕時間を十分に活用できず、肝心の収益改善策が後手に回ってしまいます。新製品開発や固定費削減は計画未達で、DDSから数年が経過し猶予期間終了が近づいても本業の黒字化には至りませんでした。結局、再び債務超過となったC社は追加支援を仰ぐも金融機関の同意は得られず、自力再生を断念して破産申立に至りました。DDSそれ自体は有効な財務戦略でしたが、返済猶予中に事業の立て直しを図れなかったことが敗因と言えます。このケースから、財務リストラによる時間猶予を得ても油断せず、抜本的な事業改革を迅速に進める必要性が教訓として示されます。


7. Q&A:よくある質問

Q: 自社に適した事業再生スキームはどのように選べばよいですか?
A: まず自社の抱える課題を見極めましょう。債務の返済負担が一時的に重いだけならリスケやDDSで時間を稼ぎつつ改善を図る選択肢があります。根本的に債務超過で債権者の協力が得られそうならDDS/DESや私的整理ガイドラインの活用が考えられます。事業そのものには価値があるが債務整理が必要な場合は第二会社方式、外部資本を入れてでも再建したい場合はスポンサー型や事業譲渡といった手法が候補になります。それぞれのメリット・デメリット(章3参照)を踏まえ、自社の財務状況・事業価値・利害関係者の意向を総合的に考慮して決定します。不明な場合は中小企業活性化協議会や専門家に相談し、第三者の視点でアドバイスをもらうとよいでしょう。

Q: 金融機関との交渉で特に重要なポイントは何ですか?
A: 誠実さと準備がキーワードです。金融機関には早めに相談し、経営状況を正直に開示してください 。その上で「この計画なら再建できる」という筋道を示すことが重要です。綿密な再生計画と裏付け資料を用意し、数字とロジックで説得しましょう。交渉では感情的にならず、銀行の論理(担保の処分や他行との公平性など)を理解した説明を心がけます (銀行との交渉方法 | 第二東京弁護士会 倒産法研究会)。また日頃からの信頼関係構築も大切です。約束した報告は必ず実行し、改善状況を共有するなど、「この経営者なら任せられる」という印象を与えるよう努めましょう。必要に応じて専門家に同席してもらい、金融機関とのコミュニケーションを円滑にするのも有効です。

Q: 公的支援制度を利用するにはどんな条件や手続きがありますか?
A: 中小企業活性化協議会の支援は基本的に要件を満たす中小企業であれば無料で利用できます。直近の業績悪化や債務問題を抱えていることが前提ですが、まずは各都道府県の窓口に相談申込をします。専門家との面談を経て支援が開始されます。経営者保証ガイドライン適用には、金融機関との個別協議が必要です。借入の返済が困難になった段階で金融機関に申し出て、ガイドライン条件(私財提供や不正の無さ等)のヒアリングや審査を経て合意されれば保証免除等が実行されます。事業再生等ガイドラインによる私的整理手続き利用は、商工会議所や金融機関経由で専門家(事業再生ADR協会など)に申請する形になります。いずれも公的な枠組みを使うことで手続きの透明性と公平性が確保され、金融機関も応じやすくなります。まずは利用したい制度の窓口や取引銀行に問い合わせ、具体的な手順を確認しましょう。

Q: 事業再生を成功させるために最も重要な要素は何でしょうか?
A: 一つに絞るのは難しいですが、強いて言えば「経営者の覚悟と実行力」が重要です。事業再生には痛みを伴う決断(不採算事業の整理、人員削減、資産売却など)が避けられません。それを先延ばしにせずタイムリーに断行できるかが成否を分けます。また再生計画を策定するだけでなく、日々の業務の中で地道に改革を実践し成果を出す実行力も必要です。加えて、支援者との信頼関係も大切です。金融機関やスポンサー、従業員など利害関係者が「この会社を助けたい」と思えるかどうかは、経営者の熱意・誠実さ・ビジョンの示し方にかかっています。つまり経営トップのリーダーシップこそが再生プロジェクトを牽引する原動力です。もちろん外部環境などコントロール不能な要素もありますが、ブレない意志で再生に取り組む姿勢が成功への第一歩となります。

この記事では、事業再生の具体的なスキームとその活用法、さらに交渉術や支援制度について詳しく解説しました。自社の状況に合った手法を選択し、金融機関や専門家の力も借りながら適切に進めれば、中小企業でも十分に再生は可能です。一方で再生策の効果は時間との勝負の面もあるため、迷ったら早めに行動することが肝心です。事業再生に取り組む経営者の皆様が、本記事の情報を活かして一日も早く企業の再建を成し遂げられることを願っています。


8. まとめ

事業再生は、単なる資金繰りの改善や債務圧縮にとどまらず、企業の持続的な成長を実現するための重要なプロセスです。再生の成功には、自社の状況に合った適切なスキームを選択し、計画的に実行することが不可欠です。本記事では、代表的な事業再生手法や金融機関との交渉戦略、公的支援制度の活用方法について解説し、成功へと導くためのポイントを整理しました。

事業再生を進める上では、経営者が一人で抱え込まず、金融機関や専門家との連携を図ることが極めて重要です。財務や法務の知識だけでなく、実務的な手続きや交渉のノウハウが求められる場面も多いため、適切なアドバイザーの支援を受けながら進めることで、より円滑に再生計画を実現できます。

次回は、「事業再生における専門家の役割」について解説します。税理士・会計士・弁護士・公的支援機関などが、事業再生の各段階でどのようにサポートできるのか、その活用方法や実務的なポイントを詳しくご紹介します。事業再生の成功率を高めるためにも、ぜひご覧ください。

本シリーズの全体像や他の関連テーマについては、ぜひ【事業再生・廃業ガイド 記事シリーズ】をご覧ください。

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