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3.M&Aプロセスの具体的手順

作成者: エスポイント合同会社|2024年12月2日

想定読者:M&Aの全体像は理解したが、具体的な行動ステップを把握したい中小企業の経営者・実務担当者
ゴール:ターゲット企業の選定や初期交渉から、NDA(秘密保持契約)締結、基本合意(LOI)、資金計画策定に至るまでの流れを理解し、実践に移せるようになる

前回の記事(「M&A実施前の準備」)では、M&Aを成功に導くために必要な「目的・ゴール設定」「財務状況や企業価値の分析」「戦略の優先順位化」「専門家・支援機関の活用」「社内外のコミュニケーション計画」について詳しくお伝えしました。それらを踏まえた上で、いよいよ本格的にM&Aの実務に乗り出す段階に入ると、まず行うべきことのひとつが「ターゲット企業の選定と初期交渉」、そして「NDA(秘密保持契約)の締結」や「LOI(基本合意)の作成・共有」、さらには「資金計画の立案」などです。

本記事では、M&Aの具体的なプロセスを5つのステップに分けて解説します。

特に中小企業のM&Aでは、地域性や規模、経営者同士の関係性などが大きく影響するため、事前準備段階で作り上げた「優先条件」や「目標」がものを言います。目的や譲れない要件を見失わずに、交渉や合意形成のフェーズを乗り越えることが、最終的な成功につながるのです。
では、それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。

目次

  1. 買収ターゲット企業の選定とリサーチ
  2. ターゲット企業との接触と初期交渉
  3. NDA(秘密保持契約)の締結
  4. 基本合意書(LOI)の作成と条件の共有
  5. M&Aに必要な資金計画の立案
  6. まとめ

1. 買収ターゲット企業の選定とリサーチ

M&Aのプロセスを本格始動させるうえで最初に行うのが「ターゲット企業の選定」です。売り手・買い手の立場によって切り口は異なりますが、ここでは主に「買い手」の視点を軸にまとめます(売り手は候補となる買い手企業を選定する、という逆のアプローチをとることになります)。

情報源の活用

FAや仲介会社、地方銀行、業界団体などを活用します。専門家のネットワークを通じて、質の高い情報収集を実現します。

ターゲット企業の絞り込み

シナジー効果、財務状況、経営者の意向を考慮します。企業価値の分析を通じて最適なターゲットを特定します。

複数候補の同時進行管理

優先順位をつけ、効率的に進めます。体系的なアプローチで複数の候補企業を並行して評価します。

1-1. 情報源の活用

  • FA(ファイナンシャルアドバイザー)や仲介会社:
    すでにFAや仲介会社を選定している場合、彼らが保有するネットワークや案件情報を頼るのが最も一般的な方法です。中小企業向けM&Aで実績のある仲介会社ならば、大小さまざまな案件を抱えており、自社の戦略や条件にマッチする候補を提案してくれるでしょう。
  • 地方銀行・信用金庫など金融機関:
    地域金融機関は、地元企業の経営実態や後継者事情を把握しているケースが多く、「売り手が潜在的にM&Aを検討している」情報を日頃から仕入れていることがあります。特に地方密着の信金や地銀は独自のネットワークを持ち、初期段階のマッチングをサポートしてくれる可能性があります。
  • 業界団体・商工会議所・マッチングプラットフォーム:
    業界団体が主催する交流会や展示会、あるいは商工会議所のセミナーなどに参加することで、潜在的な売り手や仲介人と接点を持つことができます。また、近年ではインターネット上でM&Aの買い手・売り手をマッチングするサービス(プラットフォーム)も増えており、匿名ベースで情報交換できるケースもあります。

1-2. ターゲット企業の絞り込み

  • シナジー効果の見込み
    同業・隣接業種・補完関係など、自社と組み合わせることでシナジー(相乗効果)が得られるかを考慮します。たとえば同業の場合は、統合後にシェア拡大やコスト削減を期待できる一方、顧客層の重複が多すぎると両社の従業員配置や在庫管理などに無駄が生じるかもしれません。隣接業種や補完関係であれば、新たなサービスラインや製品ラインを取り込むことでクロスセルを狙うことができます。
  • 財務状況・将来性の検証
    事前調査の段階で財務諸表を入手しにくい場合もありますが、FAや仲介会社を通じて簡単な概要を確認することは可能です。売上・利益の推移、負債状況、主要取引先など、ざっくりとした情報をもとに、将来性があるかどうかを見極めます。ビジネスモデルが古く、市場縮小の一途をたどっている業界であれば、M&A後の成長が見込めず、シナジーを得るのが難しいかもしれません。
  • 経営者の意向と企業文化
    中小企業では「経営者個人のカラー」が企業文化の根幹になっているケースが多いため、M&A後の統合を考えたときに、社風や事業ポリシーがどう噛み合うかは重要な検討ポイントとなります。経営者がどの程度残るのか、完全に引退するのか、一定期間アドバイザーとして関与するのかなど、初期段階でもおおよその意向をつかんでおくとよいでしょう。

1-3. 複数候補の同時進行管理

  • 候補企業リストとスクリーニング
    ある程度候補が複数挙がった場合、財務的視点・事業的視点・文化的視点などでスクリーニング基準を作り、優先度をつけるのが賢明です。あれもこれも同時に交渉を進めようとすると情報管理が煩雑になり、秘密保持が難しくなるリスクがあります。
  • FAや仲介会社との連携
    仲介会社に複数の候補リストを提示してもらい、その中から自社の戦略に最も合致する企業を選び出すのも一般的です。仲介会社側も、ひとつの案件がまとまりそうであれば、他の候補案件を一時保留にするなど、優先順位の管理をアドバイスしてくれます。

2. ターゲット企業との接触と初期交渉

ターゲットをある程度絞り込んだら、いよいよ具体的なコミュニケーションを開始します。ここで「最初のアプローチ」と「初期交渉でのポイント」が大きく成果を左右します。

2-1. 初回アプローチの方法

  • 仲介会社経由でコンタクト
    相手企業に直接連絡するのではなく、仲介会社やFAを通じて正式な打診をする方法は、両社にとって安心感が高いです。特に守秘義務の観点から、デリケートな情報をやり取りする際は仲介のプロを介するのが望ましいとされています。
  • 経営者同士のトップ会談
    小規模な案件では、経営者同士が直接顔を合わせ、互いの企業理念やM&Aの目的を率直に話し合うケースもあります。ここで人間的な相性や理念の合致が感じられれば、その後のプロセスが円滑に進みやすいでしょう。逆に早い段階で相性の悪さやビジョンの相違が明らかになれば、無駄に時間をかけず撤退できます。

2-2. 初期交渉での重要ポイント

  • おおまかな取引条件のすり合わせ
    価格帯や支払いスキーム(現金、株式交換、アーンアウトなど)を「暫定的に」意見交換することで、お互いに大きなズレがないかを早期に確認します。売り手は従業員の雇用条件や経営陣の残留など、経営上の要望を大まかに伝え、買い手は資金調達状況や買収後のビジョンを説明します。
  • 信頼関係の構築
    中小企業のM&Aでは、相手企業を細部まで調べるデューデリジェンス(DD)前に「人対人」の信頼関係がかなり重視されます。特に地方企業同士では、経営者同士の評判やお付き合いの深さが大きく影響することも少なくありません。
  • 秘密保持と情報保護
    初期交渉の段階から、機密情報が交わされる可能性があるため、NDAを結ぶタイミングを見計らいながら、どこまで情報を開示するかを慎重に見極めます。まだ正式にNDAを締結していない場合は、詳細な財務数字を明かさないなど、情報管理ルールを徹底します。

2-3. 合意に至らない場合の対応

  • 相性の不一致や条件の大幅乖離
    もし初回交渉で、価格面や経営方針の相違が大きいと判明したら、無理に進めても破談になるリスクが高いです。早めに撤退し、別の候補企業に注力するほうが得策かもしれません。
  • 今後の関係継続をどうするか
    将来的にはM&Aもあり得るが、現時点では合意に至らないケースもあります。例えば、売り手企業がまだ準備不足だった場合、いったん保留にして数カ月後または1年後に再交渉するなどのオプションもあり得ます。

3. NDA(秘密保持契約)の締結

初期交渉の段階をクリアして「ある程度興味を持った」「相性も悪くない」とお互い判断できたら、NDA(Non-Disclosure Agreement、秘密保持契約)を結び、本格的に情報開示を進めるのが一般的です。

3-1. NDAの意義

  • 機密情報の保護
    M&A交渉では、企業にとって最重要機密(顧客リスト、単価、技術情報、財務詳細など)を共有する場面があります。NDAを締結し、互いに法的拘束力を持たせることで、漏洩リスクを最小化します。
  • 信頼関係の構築
    NDAの締結は、お互いに真剣に検討している証拠でもあります。ここで曖昧な態度をとる相手には警戒感が生まれ、交渉が難航する要因となります。

3-2. NDAの範囲と内容

  • 対象情報の定義
    NDAでは、「どの範囲の情報を機密とするか」を明文化します。財務情報、顧客情報、技術資料、社員リストなどを具体的に列挙し、また「既に公知の情報」「交渉外の情報」などについても除外規定を設ける場合があります。
  • 期間や違反時のペナルティ
    NDAが有効とされる期間は1~3年程度が多いですが、取引の性質によってはそれ以上の期間を定めることもあります。違反時の損害賠償責任や法的措置など、ペナルティについても明示しておくと安心です。

3-3. NDA締結後にできること

  • 詳細な財務・法務・事業情報の開示
    NDAがある程度しっかりしていれば、より深いレベルの数字や契約書、社内規定などを開示してデューデリジェンス(DD)の準備を進めやすくなります。
  • 管理体制の整備
    NDA締結後に、社内的に「M&A案件に関する情報取り扱いルール」を再度確認し、関与する従業員や専門家を限定するなど、漏洩リスクを防ぎます。

4. 基本合意書(LOI)の作成と条件の共有

NDAを結んで詳細情報をある程度交換した後、両社が「取引の大筋」について合意できそうだとなったら、「LOI(Letter of Intent=基本合意書)」を作成して、条件を共有するステップに進みます。

LOIとは:
大枠の条件合意とクロージングまでの道筋を示す文書。

LOIの主要項目:
取引価格・ストラクチャー、DDの進め方、独占交渉権の有無を含む。

LOI締結後の進展:
法的拘束力の確認、DD準備、最終契約書のドラフト検討を行う。

4-1. LOI(Letter of Intent)とは

  • 大枠の条件合意
    LOIとは、最終的な契約書ではなく、「どの程度の価格帯で、どのようなスキーム(株式譲渡、事業譲渡など)で取引を進める意向があるか」をまとめた文書です。ここでは決定事項というより「現段階での合意見込み」を明文化します。
  • クロージングまでの道筋
    LOIには、デューデリジェンスの期間や手順、最終契約締結の目標時期、主要な前提条件(各種許認可、従業員対応など)も記載します。こうして大まかなロードマップを示すことで、両社がPMI(統合後の計画)や資金調達スケジュールを逆算しやすくなります。

4-2. LOIの主要項目

  • 取引価格・ストラクチャー
    LOI段階では、「株式譲渡で概算〇〇円を目安とする」「事業譲渡で主要資産のみ取得」などの条件を定義します。アーンアウトやエarn-inなど特別な支払い条件がある場合も、この段階でざっくり合意しておきます。
  • デューデリジェンス(DD)の進め方
    DDの範囲(財務、法務、人事、ITなど)や期間、費用負担などを取り決め、もしDD結果に重大な問題が発覚した場合にどう処理するかを明記することもあります。
  • 独占交渉権の有無
    買い手が一定期間の独占交渉権を要求する場合、LOI内に「当社以外との交渉は行わない」という条項を入れることがあります。ただし、売り手としては他の候補を排除しない条件を望む場合もあり、交渉状況に応じて決まります。

4-3. LOI締結後の進展

  • 法的拘束力の度合い
    LOIには法的拘束力を含む条項と、あくまで「双方の基本的合意」を確認するにとどまる条項が混在します。売り手・買い手ともに、どの部分が拘束力を持ち、どの部分は非拘束的なのかを確認しましょう。
  • DD準備や最終契約書のドラフト検討
    LOIが締結された段階で、いよいよ本格的にデューデリジェンス(第4記事で詳述予定)が始まり、並行して売買契約書(SPA)や付随する合意書のドラフト作成が進められます。

5. M&Aに必要な資金計画の立案

LOIまで合意すると、取引の実現可能性はぐっと高まりますが、一方で具体的な資金計画を詰めていく必要があります。特に買い手企業にとっては、どのように資金を調達し、どれくらいの期間で投資を回収するかが重大な検討事項です。

5-1. 資金調達方法の選択

  • 銀行借入(融資)
    地銀やメガバンクからの借入はオーソドックスな方法ですが、企業価値や担保によって融資枠が決まります。金融機関との関係性や事業計画の説得力が重要です。
  • 投資家からの出資
    ベンチャーキャピタルやファンドなどの投資家を巻き込むことで、自己資本を厚くし、借入リスクを抑える選択肢もあります。ただし、投資家が経営に関与してくる可能性があるため、意思決定プロセスをどう設計するかの調整が必要です。
  • 社内留保資金の活用
    規模が小さいM&Aであれば、社内留保や親会社からの社内ローンなどで資金を確保するケースもあります。コスト面ではメリットがある一方、流動性が低下してしまうリスクも考慮しましょう。

5-2. キャッシュフロー予測と返済計画

  • 買収後のキャッシュフロー見通し
    M&Aによってどれだけ売上増やコスト削減が見込めるのか、また買収後の統合費用や追加投資がどの程度必要かを試算し、キャッシュフローを分析します。あまりにも楽観的な見積もりをすると、後々資金繰りに窮することになりかねません。
  • 返済期間や投資回収期間の設定
    借入の場合は返済計画を定め、ファンドや投資家の場合はエグジット戦略(再売却や株式上場など)も視野に入れます。中小企業の場合、買収後3~5年で安定稼働させ、その後7~10年で回収を図るといった長期プランを想定するケースが多いです。

5-3. シミュレーションの活用

  • ベストケース・ベースケース・ワーストケース
    M&A後の収益シナリオを3パターンほど作成し、それぞれでの返済リスクや財務指標(自己資本比率、流動比率など)を確認します。
  • 専門家のアドバイス
    資金調達を含む財務戦略は、高度なファイナンス知識が必要となる場面も多いため、FAや財務アドバイザー、会計士などに相談しながらシミュレーションを進めるのが一般的です。

6.まとめ

本記事では、M&Aのプロセスを具体的にスタートさせる際に必要なステップを中心に解説しました。まずは候補企業の選定・リサーチから始まり、初期交渉とNDA締結を経て、LOI(基本合意)へと進む流れ、その間に「大まかな条件や相手企業との相性」を確認しつつ、「資金計画」を同時並行で検討することが重要です。

ここまでの段階では、まだ最終的な契約や統合計画(PMI)に至っていませんが、実際にはこの初期フェーズでどこまで丁寧に合意形成を進められるかが、M&Aの成否を大きく左右します。特に中小企業の場合、「経営者同士の信頼関係」「社員や取引先への丁寧な説明」「資金繰りの慎重なシミュレーション」といったソフト面が非常に重要です。

また、LOIを締結したからといってゴールではありません。むしろ本格的なデューデリジェンス(DD)や最終契約交渉はこれからが本番と言えます。この先、DDの過程で思わぬリスク要因が見つかったり、価格交渉が難航したりする可能性もありますが、事前準備と初期交渉で得た情報や関係構築があれば、冷静に対処できる余地が大きいはずです。

次の記事では、「デューデリジェンス(企業精査)の重要性」について詳しく掘り下げます。LOI締結後に双方がより詳細な情報を開示し合い、財務・法務・人事・IT・ESGといった多面的な調査を実施し、最終的な価格や契約条件に反映するプロセスです。DDの精度が低いと、クロージング後に重大な問題が表面化するリスクが高まるため、ここでも専門家活用やコミュニケーションが非常に大切になります。ぜひ続きもご覧いただき、M&Aプロセス全体への理解を深めてください。

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