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14.業務プロセス改善のコストとROIの計算方法

作成者: エスポイント合同会社|2024年12月1日

中小企業が業務プロセスを改善しようと考えるとき、経営者や管理職が最初に気になるのは「本当にコストに見合うリターンが得られるのか?」という点です。これまで本シリーズでは、業務一覧表作成による全体像の把握、作業手順書・マニュアルの整備、見える化や平準化、ナレッジマネジメントの導入、マネジメントサイクルの回し方など、多彩な方法で業務を最適化するアプローチを紹介してきました。しかし、これらの施策は必ずしもゼロコストではなく、ツール導入費用や社員の学習時間など、さまざまな投資が発生します。そこで重要になるのが、「コストとROI(投資対効果)の計算方法」 です。自社の経営状況や業務の性質に合った形で、どれだけの投資を行い、どのくらいの期間でリターンを得られるのかを見極めなければ、改善活動が持続しないリスクが高まります。特に中小企業の場合、資金や人材が限られるため、投資の判断を誤ると大きな影響が出るかもしれません。

本記事では、業務プロセス改善を行う際にかかる典型的なコスト項目 を整理し、ROI(Return on Investment)をどのように計算・評価すべきかを詳しく解説します。さらに、具体的な例をもとに、成功事例でどのようにROIを出し、経営判断に活かしたのかを紹介します。業務改善プロジェクトを円滑にスタートさせ、継続的な成果を得るためにも、投資対効果の考え方をぜひマスターしていきましょう。

目次

  1. プロセス改善コスト要素
  2. ROI計算するため指標
  3. 効果測定ためKPI設定評価基準
  4. 成功事例:プロセス改善たらした利益
  5. 投資回収期間継続リターン考え方
  6. まとめ
  7. 補足コンテンツ(テンプレート・チェックリスト)

このサイトでは、中小企業が業務プロセスの最適化を実践し、持続的な成長を実現するための総合的な情報を提供しています。全体像や関連する記事は「業務プロセス最適化ガイド|全15ステップで基礎から応用まで」でご覧いただけます。

1. プロセス改善のコスト要素

業務プロセスの改善を進めるうえで、主に以下のようなコスト要素が発生する可能性があります。中小企業では、特に人件費やシステム導入費用が大きなウエイトを占めることが多いでしょう。

(1) ツール導入費用とライセンスコスト

  • RPAツールやBIツールクラウド型のワークフローシステム など、システム導入にかかる一時費用やサブスクリプション費用
  • 規模や機能により、月額数千円〜数万円、あるいは買い切りで数十万円〜数百万円と幅広い
  • システム選定の際は機能過多な製品を選びすぎないことがポイント。中小企業では小さく試して徐々に拡張していくアプローチが効率的

(2) トレーニングや教育のための費用

  • 新ツールの操作マニュアル作成や社員研修、外部コンサルタントへの支払いなど
  • 属人化が進んでいる場合は、ベテラン社員のノウハウを引き出して書面化するコストやヒアリングに割く時間もバカにならない
  • 経理・総務部門がRPA導入する際などは、基礎的なITリテラシー研修 を並行して行うケースもあり、これも計画に入れておきたい

(3) 時間的コストとリソース配分の見直し

  • 社員が通常業務をこなしながら、改善プロジェクトに時間を割く 場合は、その間の人件費や機会損失(本来の業務が遅れるリスク)を計算に入れるべき
  • 他部署や外部専門家との打ち合わせ、検証期間に発生する工数も含め、プロジェクト全体でどれだけ時間を使うかを試算する
  • 中小企業の場合、プロジェクトチームを常設するのが難しく、兼任体制 となることが多いため、過度な負荷をかけないようタスク調整が重要

(4) コンサルティングや外部支援費用

  • プロセス改善の専門家を招いたり、外部コンサルと契約したりする際の費用
  • 改善策を自社メンバーだけで立案・実行しきれない場合や、補助金申請のサポートが必要な場合などは、有料の専門家を活用する費用が発生
  • 外部支援があればプロジェクト成功確率が高まる反面、コストをかけすぎるとROIが下がる可能性もあるため、バランスが難しい

(5) 維持管理コスト(運用時)

  • システム導入後のライセンス料、保守料、バージョンアップ費用などが継続して発生
  • 作業手順書やマニュアルを整備した後も、定期的な更新作業 が人件費としてかかる
  • 改善したプロセスを監視・評価するための工数も、継続コストに含めるべき

2. ROIを計算するための指標と式

ROI(Return on Investment)は、投資に対してどれだけのリターン(利益や効果)が得られたかを評価するための代表的な指標です。一般的な計算式は次のとおりです。

例えば、「RPAツール導入に100万円かかるが、それによって年間150万円の人件費削減が見込める」と仮定した場合、

となります。つまり、投資額に対して50%のリターンが得られるという評価です。

(1) リターン(利益)の捉え方

  • 直接的コスト削減:人件費、印刷コスト、郵送費、在庫コストなどの減少額
  • 増収効果:新しいビジネスチャンス獲得や顧客満足度向上による売上増加
  • 時間短縮による生産性向上:社員1人あたりの稼働時間が減った場合、その時間をほかの付加価値業務に充てられるので、売上や収益にプラスをもたらす
  • リスク低減:トラブル対応が減ることで回避できる損失額、コンプライアンス違反リスク削減など

(2) 投資コストの内訳

  • 導入費用(システム/ツールのライセンスやハードウェア費)
  • 人件費(プロジェクトメンバーの工数、研修、マニュアル作成時間など)
  • コンサル料や外部専門家への支払い
  • 運用・保守費用(サブスクリプション、サーバ利用料など)
  • 機会損失コスト(プロジェクト期間中に失われる他業務の成長機会があれば計上)

(3) 定量評価と定性評価を組み合わせる

ROI計算は数値化できる項目を中心に行いますが、それだけでは全体像を捉えられないケースも多いです。定性面(顧客満足度の向上、社員モチベーションの向上、リスク低減の度合いなど) もあわせて評価材料に含めることで、最終的な意思決定がより正確になります。


ROI計算マニュアル

3. 効果測定のためのKPI設定と評価基準

ROIを算出するには、改善施策がどのくらいの成果を上げているかを測定するためのKPI(重要業績評価指標) を決める必要があります。KPIを正しく設定しておかないと、改善効果を数値で捉えられず、投資判断が曖昧になってしまいます。

(1) KPIの例

  • コスト削減系:印刷費や郵送費、人件費、在庫コスト、手数料などの削減額
  • 時間短縮系:業務にかかる時間やリードタイムの変化(例:月次報告作成が10時間→3時間に)
  • 品質向上系:エラー件数やクレーム件数の減少、不良率の低減、顧客満足度(CSAT)など
  • 売上/利益向上系:一定期間の売上増加率、新規顧客獲得数、利益率など
  • リスク低減系:障害発生件数、セキュリティ事故件数、コンプライアンス違反の防止など

(2) 評価基準と目標値

  • KPIを設定したら、どの値を目標とするかを明確にします。たとえば「月次報告にかかる時間を半分にする」「クレーム件数を30%削減する」「売上を10%拡大する」など。
  • 組織全体にその目標を共有し、達成状況を定期的にモニタリングする体制(スプリントレビュー、月次報告など)を確立すると、社員が数値を意識しやすくなります。

(3) データ収集とレポーティング

  • KPIを測定するためのデータをどう集めるかを検討します。RPAやBIツール導入の場合は、ログを自動的に記録する仕組みがある場合が多いので、そのデータを使えばいいでしょう。手動で集める場合は、担当者が面倒になって記入忘れするリスクもあるため、集計の流れを極力自動化する のがおすすめです。
  • レポート形式やダッシュボードを作成し、上司や経営層だけでなく現場メンバーもリアルタイムで指標を確認できる仕組みを構築すると、現場の主体性 を促しやすくなります。


KPI設定ガイド

4. 成功事例:プロセス改善がもたらした利益

以下では、実際に業務プロセス改善で投資を行い、ROIを計算して経営判断に活かした中小企業の例を紹介します。

(1) 製造業P社:RPA導入で生産管理を自動化

  • 背景:注文データをExcelで取りまとめ、在庫システムに手入力する作業が属人化し、毎月40時間以上かかっていた。疲労からミスも多発し、顧客納期の遅れも目立った。
  • 施策
    1. RPAツール導入に50万円(初期費)+月額1万円のサブスクを支出
    2. 経理部門・生産管理部門の社員を集めて手順書を再編成し、RPAで自動化できる範囲を洗い出す
    3. テスト運用期間1か月で改善し、本番稼働
  • リターン
    • 人件費削減:担当者1人あたり月40時間→5時間に短縮したため、時給計算で月6万円×12か月=72万円のコスト削減
    • ミス削減:在庫ミスや注文漏れが激減し、クレーム対応コストが年20万円分ほど減
    • 計算上のROI:初年度の投資額は約50万+(月1万円×12か月)=62万円。リターンが72万+20万(クレーム減分)=92万円として、
    • およそ50%近いROIで、投資額を1年以内に回収し、以後の年は定期的なサブスク以外の大きなコストがかからないため、さらに高いリターンを期待できる見込み

(2) サービス業Q社:ナレッジマネジメントツール導入による顧客対応改善

  • 背景:複数店舗を運営するQ社では、顧客からの問い合わせやクレーム対応を店舗ごとにばらばらに行っており、成功事例や失敗事例が共有されない。新人教育も属人的で離職率が高い。
  • 施策
    1. ナレッジベース構築のためにクラウド型システムを導入(初期費用30万円+月額2万円)
    2. 店舗スタッフへのOJT・研修(約40時間)やマニュアル整備(約20時間)を行う
    3. 全スタッフがFAQやクレーム対応ノウハウを参照し、随時アップデートする運用を確立
  • リターン
    • 対応時間短縮:問い合わせ対応が店舗ごとに平均15分→10分に短縮。月1,000件対応なら(15→10)×1,000=5,000分の削減。時給1,200円換算なら月10万円相当
    • クレーム件数削減:顧客満足度が向上し、クレーム件数が月50件→30件に減少。対応にかかる人件費と謝罪コストなどで月5万円相当の削減
    • 離職率低下:新人教育が効率化され、離職率が年20%→12%に低減。採用費や教育費が削減され、年30万円ほどの節約
    • 計算上のROI:初年度投資額は30万+(2万×12か月)=54万円+研修人件費(約60時間×1,200円×店舗数など)も加味すると計70万円程度と想定。 リターン合計が月15万円強で年約180万円相当と見積もれば、
    • 投資額回収期間は半年足らず。2年目以降は月額のみなのでROIはさらに高くなる見通し

(3) 商社R社:ペーパーレス化で経理部門の生産性向上

  • 背景:仕入先や顧客との書類交換が膨大で、経理部門が紙処理に追われる。押印や郵送コストがかさんで経営者が一念発起してペーパーレス化を決断。
  • 施策
    1. 電子稟議システム+電子契約サービスを契約(初期費用40万、月額3万)
    2. 経理部門中心にワークフローを見直し、各支店が提出する書類を全てクラウドに移行
    3. 顧客にも電子契約・電子請求書を原則として要請(協力しない顧客には暫定で紙併用)
  • リターン
    • 印刷・郵送費削減:年間100万円超を紙・郵送に使っていたが、8割カット(80万円節約)
    • 承認リードタイム短縮:平均3〜4日かかっていた稟議が1日以内で済む
    • アーカイブ管理効率:紙を保管していた倉庫スペースが不要に近くなり、家賃削減が年15万円
    • ROI試算:初年度投資(40万+3万×12=76万)に対し、印刷・郵送費80万+倉庫家賃15万など95万円節約を見込めば、 
    • 1年目は25%程度だが、2年目以降は初期費用が不要なのでROIは大幅に上がると推定

これらの事例が示すように、業務プロセス改善を数値で評価し、ROIとして算出することで**「どこに投資し、どのくらいの期間で回収できるか」** を経営視点で判断しやすくなります。また、ROIが高いプロジェクトを優先的に回すことで、組織全体の改善活動を加速させられるのが大きな利点です。

5. 投資回収期間と継続的なリターンの考え方

ROIを計算すると同時に、投資を何年(または何カ月)で回収できるかを把握するのは、中小企業において非常に重要です。資金繰りが逼迫している企業ほど、投資回収期間(Payback Period)が長すぎるプロジェクトは敬遠されやすい一方、効果が早く見えやすい改善策は実行しやすいと言えます。

(1) 投資回収期間(Payback Period)の式

基本的には、

で求められます。上記の事例で見たように、初年度だけ大きな投資が必要なケースでは、この期間をなるべく1年〜2年以内に収まるように設計できれば理想的です。

(2) 継続的なリターンとランニングコスト

  • 改善施策が定着した後、毎年のコスト削減や売上増 が続く場合は、投資回収後も継続的にプラス効果が得られます。
  • 一方、月額料金が発生したり、ツールのバージョンアップに追加費用がかかる場合は、継続コスト を織り込みつつ、長期的なリターンを試算することが大切。
  • 高額な外部コンサルをスポットで依頼する場合は、短期で大きな成果を狙える反面、費用対効果がどれだけ高いか綿密に検討する必要があります。

(3) リスクと感度分析

  • ROIやPayback Periodを計算する際は、楽観的シナリオだけでなく悲観的シナリオ も用意し、リスク分析(Sensitivity Analysis)を行うのがベスト。
    • 予定より導入が遅れた場合
    • 想定より効果が半分しか出なかった場合
    • 組織抵抗が強く、利用率が低下した場合
  • こうした変動要素を考慮し、投資判断に余裕 を持たせておくことが中小企業の安全策です。

まとめ

業務プロセス改善には多方面のコストが発生し得る一方、それを上回るリターン(コスト削減、売上増、品質向上、リスク低減など)が得られることで、企業は持続的に競争力を強化していけます。重要なのは、投資コストとリターンを数値や指標(KPI)で把握し、ROIの観点で定期的に評価しながらプロジェクトを進める ことです。

本記事で紹介したコスト項目(ツール導入費、研修・教育費、時間的工数など)と効果測定のためのKPI設定、ROI計算の式・事例を活用すれば、経営層や管理職は改善プロジェクトごとの優先度を比較検討し、最小限の投資で最大の成果を狙える 方針を組み立てやすくなります。また、投資回収期間を考慮することで、資金繰りに余裕がない中小企業でも安心して改善活動を始める道筋が見えやすくなるでしょう。

次回は、シリーズ最終回となる「持続可能な業務プロセス最適化のために」をテーマに、ここまで学んだ様々な手法をどのように組み合わせ、企業文化として定着させるかを総括します。業務プロセスの改善は、一度きりではなく継続的に行うことで真の競争力を獲得できますので、ぜひお見逃しなくご覧ください。

もし、業務改善の投資判断やROI試算に悩んでいる場合は、エスポイントまでお気軽にお問い合わせください。 貴社の業務内容やコスト構造を丁寧にヒアリングし、最適な投資規模やROI目標の設定を支援するとともに、改善プロジェクトの計画から実行、効果測定までを包括的にサポートいたします。

本シリーズの全体構成や他の関連記事は業務プロセス最適化ガイド|全15ステップで基礎から応用までで確認できます。

補足コンテンツ(マニュアル・ガイド)

  • ROI計算マニュアル
    → 改善プロジェクトごとに「投資コスト」「削減コスト」「増収額」などを入力し、ROIやPayback Periodを算出できるようになるためのマニュアル。

  • KPI設定ガイド(PDF)
    → コスト削減・時間短縮・品質向上などのKPIをどのように設定し、どのように測定すれば良いかを解説したガイド。サンプルKPIや目標値の設定例、測定頻度のアドバイス付き。

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