想定読者
ゴール
前回の記事では「教育方針とカリキュラムの設計」について、どのように研修内容や学習テーマを優先順位づけするか、そして短期・中長期でどう組み合わせるかを解説しました。理想的なカリキュラムが描けたとしても、実際に社員教育を実行するうえでは「予算が足りない」「忙しくて研修に時間を割けない」「講師をどこから確保すればいいのか分からない」といった現実的な悩みが立ちはだかります。中小企業にとって、この「リソース不足」はまさに最大級のハードルと言えるでしょう。
しかし、社内の限られた人員や費用をやりくりするだけではなく、外部リソースを積極的に活用したり、研修のスケジュールやインセンティブの仕組みを工夫したりすることで、少ないコストでも十分に高い効果を得ることは可能です。むしろ中小企業だからこそ、小回りの利く対応や自治体・商工会議所の支援をうまく活かして、社員教育を加速させるチャンスがあります。
本記事では、社員教育を円滑に進めるための「必要なリソースの確保」という視点から、(1)予算・コストの確保と社内説得のヒント、(2)スケジュールや時間をどう捻出するか、(3)外部リソースや助成金の活用事例、(4)インセンティブ設定で社員のモチベーションを高める方法――といったポイントを詳しく解説します。研修を「絵に描いた餅」で終わらせないために、ぜひ自社の状況に合わせて活用してみてください。
研修を実施するには当然、費用が発生します。社内講師を立てるだけでも講師となる社員の負担増を考慮する必要がありますし、外部研修や資格取得支援を行うなら予算が必要になります。限られた経営資源をいかに確保し、経営陣や他部署を説得するかは、人事担当者や管理職にとっての大きな課題です。
教育費用を“コスト”ではなく“投資”と捉えてもらうためには、**投資対効果(ROI)**を見える化する努力が求められます。たとえば、IT研修を実施して社員のPCスキルを上げることにより、業務時間が○%削減される見込みがあるとか、営業スキルを強化することで新規顧客獲得数が増加し、売上アップにつながるといった根拠を示すわけです。
中小企業庁や厚生労働省、各地方自治体などが提供している補助金・助成金制度を活用すれば、研修費用の一部や人材開発費用を補助してもらえる場合があります。有名なところでは「キャリア形成促進助成金」や「人材開発支援助成金」などが挙げられます。
中小企業では、日々の業務をこなすだけで手いっぱいになりがちです。そのため、「研修を行いたいが、社員の業務をいつ止めるのか」「忙しい現場から人を抜くと顧客対応が回らない」といった問題が浮上しやすいでしょう。しかし、教育のための時間を確保しないままでは、いつまで経っても研修が実行できません。そこで、スケジュール設計の段階で以下の工夫を取り入れることが大切です。
まずは自社の年間業務サイクルを見直し、閑散期に研修を集中させる方法を検討してみましょう。
全社員をいっせいに研修へ参加させるのではなく、シフト制や交代制で対応して、一部の社員は現場を回し、別の社員は研修に参加するといった運用も可能です。また、どうしても業務時間内が難しい場合は、定時後や週末を活用するという選択肢もあります。
コロナ禍以降、オンライン研修やeラーニングを導入する企業は急激に増えています。場所や時間の制約を大幅に緩和できるため、日中は業務をこなし、夜間や休日に各自が学習を進めることも可能になります。
オンライン研修を導入する際は、受講者が途中で挫折しないように進捗管理ツールやチューター制度を組み込むと効果的です。
中小企業が自社だけで研修を内製化しようとすると、どうしても専門知識の不足やノウハウの偏りが起きがちです。そこで活用すべきなのが、商工会議所や自治体主催の研修、専門コンサルタント、オンライン学習プラットフォームなどの外部リソースです。
各地の商工会議所や地方自治体では、中小企業向けにさまざまな研修・セミナーを開催しています。多くの場合、参加費が低額または無料で、実務に役立つテーマ(IT活用、マネジメント基礎、マーケティングなど)を扱うことが多いです。
こういった公的機関の研修をうまく取り込むことで、社内の負担を最小限にしながら社員のスキルアップを図れます。
近年、UdemyやSchoo、Progateなど、オンラインで学べるプラットフォームが充実しています。特にUdemyでは、プログラミングやマーケティング、マネジメントなど、幅広いカテゴリの講座が有料・無料で提供されており、講座の質も多様です。
自社が取り組もうとしている領域が高度な専門知識を要する場合、外部の専門コンサルタントに依頼してオーダーメイド研修を設計してもらうのも有効な手です。
外部リソースを活用するのは効率的ですが、社内で学習成果をどう定着させるかが重要です。外部研修に参加した社員が、社内でその知識やスキルをほかのメンバーと共有し、ノウハウを蓄積する仕組みを作りましょう。たとえば、研修レポートの提出や社内勉強会の実施などをルール化しておくと、単発の研修で終わらず社内資産として残ります。
「研修を受けてほしい」「学びを深めてほしい」と願っていても、当の社員が乗り気でなければ成果は得にくいもの。そこで効果的なのが、インセンティブ(動機づけ)の仕組みを整えることです。中小企業でも十分に取り入れられる施策がいくつか存在します。
こうした制度によって学習意欲が向上し、社内でのポジティブな競争や協力が生まれやすくなります。
研修を受けることが昇進・昇格の条件の一部となっている企業は少なくありません。等級要件で「〇級に上がるには、この研修を修了し、かつ実務で成果を示すこと」と明記すれば、社員は自ら進んで研修を受けるモチベーションを持ちやすくなります。
学習プロセス自体を「ゲーム化」する手法は、若手社員や新卒採用者が多い企業でも取り入れやすい方法です。ポイント制で学習達成度を可視化したり、ミニコンペを開いて優秀者にちょっとした報奨を与える仕組みは、研修を“義務”ではなく“楽しみ”に変える可能性があります。
インセンティブの仕組み以上に大切なポイントは、管理職やリーダー層が「学ぶ姿勢」を示すことです。上司が忙しさを理由に研修をスキップしていると、部下も「実際は研修より業務優先かな」と感じてしまいます。逆に、リーダーが新しい知識や資格取得に熱心であれば、社員は「自分も成長しなければ」と触発されやすくなるでしょう。
社員教育に力を入れるうえで大きな障害となる「リソース不足」は、中小企業にとって避けて通れないテーマです。しかし、以下のポイントを押さえれば、限られた時間・予算・人員でも十分に成果を上げることが可能です。
予算の確保と社内説得
スケジュール・時間の捻出
外部リソースの活用
インセンティブ設定
「教育は贅沢品ではない、しかし取り組み方を誤ると成果が出にくい」というジレンマを抱える中小企業こそ、自社に合ったリソース確保の仕組みを構築することで、着実に組織力を高められます。教育投資への理解を社内外から得つつ、最小限の投資で最大限の効果を狙っていきましょう。
次回の記事では、「管理職の育成と役割」についてさらに深堀りします。管理職やリーダーが組織を引っ張るうえで必要なスキルや心構え、その研修内容と教育施策との結びつきを具体的に解説することで、組織全体のパフォーマンス向上を後押しする仕掛けを探っていきたいと思います。
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