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4.必要なリソースの確保

作成者: エスポイント合同会社|2024年10月20日

想定読者

  • 教育コストや時間確保に頭を悩ませている人事担当者
  • 経営側に研修予算確保を説得したい管理職・教育担当者
  • 中小企業で限られたリソースを最大限に活かしたい経営者

ゴール

  • 社員教育のために必要な「予算・時間・人員リソース」をどう捻出するかを具体的に理解する
  • 外部リソース(補助金・助成金・商工会議所など)や社内工夫の手法を把握し、教育体制の強化につなげる

前回の記事では「教育方針とカリキュラムの設計」について、どのように研修内容や学習テーマを優先順位づけするか、そして短期・中長期でどう組み合わせるかを解説しました。理想的なカリキュラムが描けたとしても、実際に社員教育を実行するうえでは「予算が足りない」「忙しくて研修に時間を割けない」「講師をどこから確保すればいいのか分からない」といった現実的な悩みが立ちはだかります。中小企業にとって、この「リソース不足」はまさに最大級のハードルと言えるでしょう。

しかし、社内の限られた人員や費用をやりくりするだけではなく、外部リソースを積極的に活用したり、研修のスケジュールやインセンティブの仕組みを工夫したりすることで、少ないコストでも十分に高い効果を得ることは可能です。むしろ中小企業だからこそ、小回りの利く対応や自治体・商工会議所の支援をうまく活かして、社員教育を加速させるチャンスがあります。

本記事では、社員教育を円滑に進めるための「必要なリソースの確保」という視点から、(1)予算・コストの確保と社内説得のヒント、(2)スケジュールや時間をどう捻出するか、(3)外部リソースや助成金の活用事例、(4)インセンティブ設定で社員のモチベーションを高める方法――といったポイントを詳しく解説します。研修を「絵に描いた餅」で終わらせないために、ぜひ自社の状況に合わせて活用してみてください。

目次

  1. 予算確保社内説得方法
  2. スケジュール・時間捻出
  3. 外部リソース活用メリット留意
  4. インセンティブ設定重要性
  5. まとめ・結び

1. 予算の確保と社内への説得方法

研修を実施するには当然、費用が発生します。社内講師を立てるだけでも講師となる社員の負担増を考慮する必要がありますし、外部研修や資格取得支援を行うなら予算が必要になります。限られた経営資源をいかに確保し、経営陣や他部署を説得するかは、人事担当者や管理職にとっての大きな課題です。

1-1. 研修のROI(投資対効果)を可視化する

教育費用を“コスト”ではなく“投資”と捉えてもらうためには、**投資対効果(ROI)**を見える化する努力が求められます。たとえば、IT研修を実施して社員のPCスキルを上げることにより、業務時間が○%削減される見込みがあるとか、営業スキルを強化することで新規顧客獲得数が増加し、売上アップにつながるといった根拠を示すわけです。

  • 定性的効果: 離職率の低下、社内のモチベーション向上、学習文化の醸成
  • 定量的効果: 売上増加、問い合わせ対応時間の短縮、新規顧客数の拡大
    「教育を行わないことの機会損失」と比較し、研修投資がもたらすメリットを定量・定性両面からプレゼンテーションすることで、経営層や財務担当者も納得しやすくなります。

1-2. 補助金や助成金の活用

中小企業庁や厚生労働省、各地方自治体などが提供している補助金・助成金制度を活用すれば、研修費用の一部や人材開発費用を補助してもらえる場合があります。有名なところでは「キャリア形成促進助成金」や「人材開発支援助成金」などが挙げられます。

  • 活用のポイント
    • 公募要領や締切時期を把握し、申請書をしっかり作り込む
    • 研修の実施計画や目標を明記し、助成金の趣旨に合った形で進める
    • 記録(受講者リスト、実施内容、アンケート等)を確実に残し、報告義務に対応する
      こうした助成金は予算枠や期限があるため、こまめに行政や商工会議所のサイトをチェックして最新情報を入手し、タイミングを逃さないよう注意が必要です。

1-3. 経営陣への説得時のポイント

  • 短期的効果と長期的効果を両面で説明: 経営者が気にするのはすぐのキャッシュフローだけではありません。長期的に企業の基盤を強くする意義も同時に伝える。
  • 数字を出す: なんとなくのイメージだけではなく、「この教育が実施されれば、○%の効率アップが見込める」というように具体的な見込み数値を示す。
  • 小さく始めて成果をアピール: 大規模研修を一気に導入するのではなく、まずは小規模の試験運用を行い、成果を示してから拡大していく。
  • 他社の成功事例を引用: 同業他社が教育投資を行い、どう成果を上げたかを紹介することで、経営層の理解を得やすくなる。

2. スケジュール・時間の捻出

中小企業では、日々の業務をこなすだけで手いっぱいになりがちです。そのため、「研修を行いたいが、社員の業務をいつ止めるのか」「忙しい現場から人を抜くと顧客対応が回らない」といった問題が浮上しやすいでしょう。しかし、教育のための時間を確保しないままでは、いつまで経っても研修が実行できません。そこで、スケジュール設計の段階で以下の工夫を取り入れることが大切です。

2-1. 繁忙期・閑散期を把握する

まずは自社の年間業務サイクルを見直し、閑散期に研修を集中させる方法を検討してみましょう。

  • たとえば製造業であれば、年度末や年末に受注が集中する場合が多い一方、春~初夏が比較的落ち着くケースもあります。
  • 小売業なら、年末年始やセール時期、イベントシーズンを外すのが基本です。
    このように、業務の波を計画的に捉えることで、余裕がある時期に集中的に研修を行う体制を作ることができます。

2-2. 時間割の工夫(定時後や週末、分割研修など)

全社員をいっせいに研修へ参加させるのではなく、シフト制や交代制で対応して、一部の社員は現場を回し、別の社員は研修に参加するといった運用も可能です。また、どうしても業務時間内が難しい場合は、定時後や週末を活用するという選択肢もあります。

  • ただし、定時後や週末の研修には、社員の負担を軽減するための振替休日研修手当などを検討し、モチベーションを下げない仕組みをセットにするのが望ましいです。
  • 研修を細かく分割し、週に1回・1時間程度の短いセッションを数ヶ月続ける方法もあります。これによって業務への支障を最小限に抑えつつ、少しずつ学習を積み重ねることができます。

2-3. オンライン研修・eラーニングの活用

コロナ禍以降、オンライン研修やeラーニングを導入する企業は急激に増えています。場所や時間の制約を大幅に緩和できるため、日中は業務をこなし、夜間や休日に各自が学習を進めることも可能になります。

  • ライブ配信型: リアルタイムで講師の説明を受けられるが、時間の調整が必要
  • オンデマンド型: 受講者が自分の都合に合わせて学習可能だが、自己管理が課題
  • ハイブリッド型: 基本はオンデマンド、要所でライブセッションやグループディスカッションを行う

オンライン研修を導入する際は、受講者が途中で挫折しないように進捗管理ツールチューター制度を組み込むと効果的です。

3. 外部リソース活用のメリットと留意点

中小企業が自社だけで研修を内製化しようとすると、どうしても専門知識の不足やノウハウの偏りが起きがちです。そこで活用すべきなのが、商工会議所や自治体主催の研修、専門コンサルタント、オンライン学習プラットフォームなどの外部リソースです。

3-1. 商工会議所・自治体が主催する安価な研修

各地の商工会議所や地方自治体では、中小企業向けにさまざまな研修・セミナーを開催しています。多くの場合、参加費が低額または無料で、実務に役立つテーマ(IT活用、マネジメント基礎、マーケティングなど)を扱うことが多いです。

  • メリット: コストを抑えつつ、基礎的・汎用的なスキルを社員に習得させられる
  • デメリット: テーマが自社のニーズに100%合わない場合もある

こういった公的機関の研修をうまく取り込むことで、社内の負担を最小限にしながら社員のスキルアップを図れます。

3-2. オンライン学習プラットフォーム(Udemyなど)

近年、UdemyやSchoo、Progateなど、オンラインで学べるプラットフォームが充実しています。特にUdemyでは、プログラミングやマーケティング、マネジメントなど、幅広いカテゴリの講座が有料・無料で提供されており、講座の質も多様です。

  • メリット
    • 自分のペースで学習可能
    • 低コスト・短時間で特定テーマだけを学べるコースも豊富
    • エンジニアリングやデザインなど「最新トレンド」を学ぶのに適している
  • デメリット
    • 講座の質がまちまちで、選定に手間がかかる
    • 受講者のモチベーション管理をしないと、途中離脱することが多い

3-3. 専門コンサルタントや講師の派遣

自社が取り組もうとしている領域が高度な専門知識を要する場合、外部の専門コンサルタントに依頼してオーダーメイド研修を設計してもらうのも有効な手です。

  • メリット
    • 自社の課題にぴったり合った研修内容を作成してもらえる
    • 最新事例や専門ノウハウに基づき、深いレベルで学習できる
  • デメリット
    • 費用が高くなる可能性が高い
    • コンサルタントや講師のスケジュールやスタイルに合わせる必要がある

3-4. 留意点:外部研修だけに頼りすぎない

外部リソースを活用するのは効率的ですが、社内で学習成果をどう定着させるかが重要です。外部研修に参加した社員が、社内でその知識やスキルをほかのメンバーと共有し、ノウハウを蓄積する仕組みを作りましょう。たとえば、研修レポートの提出や社内勉強会の実施などをルール化しておくと、単発の研修で終わらず社内資産として残ります。

4. インセンティブ設定の重要性

「研修を受けてほしい」「学びを深めてほしい」と願っていても、当の社員が乗り気でなければ成果は得にくいもの。そこで効果的なのが、インセンティブ(動機づけ)の仕組みを整えることです。中小企業でも十分に取り入れられる施策がいくつか存在します。

4-1. 研修手当や社内表彰

  • 研修手当: 研修時間が業務外になった場合、給与や手当で補償することで「自分の時間を削って学ぶのが損にならない」と社員が納得できる
  • 社内表彰: 修了証の発行や、研修成果の発表会を行い、優秀者や積極的に取り組んだ社員を表彰する

こうした制度によって学習意欲が向上し、社内でのポジティブな競争や協力が生まれやすくなります。

4-2. キャリアパスとの連動

研修を受けることが昇進・昇格の条件の一部となっている企業は少なくありません。等級要件で「〇級に上がるには、この研修を修了し、かつ実務で成果を示すこと」と明記すれば、社員は自ら進んで研修を受けるモチベーションを持ちやすくなります。

  • :
    • リーダー候補は管理職研修を受講し、チーム成果や面談を評価する
    • 中堅社員がIT資格を取得すると「上級職」に昇格できる要件を満たす

4-3. ゲーミフィケーションや社内コンペ

学習プロセス自体を「ゲーム化」する手法は、若手社員や新卒採用者が多い企業でも取り入れやすい方法です。ポイント制で学習達成度を可視化したり、ミニコンペを開いて優秀者にちょっとした報奨を与える仕組みは、研修を“義務”ではなく“楽しみ”に変える可能性があります。

  • 社内プレゼン大会: 研修で学んだ内容を発表し、アイデアの質や発表力を競う
  • ポイントバッジ制度: 受講コースを修了するごとにポイントを付与し、一定ポイントで特典を得られる仕組み

4-4. 管理職やリーダーのロールモデル

インセンティブの仕組み以上に大切なポイントは、管理職やリーダー層が「学ぶ姿勢」を示すことです。上司が忙しさを理由に研修をスキップしていると、部下も「実際は研修より業務優先かな」と感じてしまいます。逆に、リーダーが新しい知識や資格取得に熱心であれば、社員は「自分も成長しなければ」と触発されやすくなるでしょう。

5. まとめ・結び

社員教育に力を入れるうえで大きな障害となる「リソース不足」は、中小企業にとって避けて通れないテーマです。しかし、以下のポイントを押さえれば、限られた時間・予算・人員でも十分に成果を上げることが可能です。

  1. 予算の確保と社内説得

    • 教育のROIを定量・定性両面から示し、「コスト」ではなく「将来への投資」として捉えてもらう
    • 助成金や補助金の制度を積極的に活用し、小さく始めて成果をアピールしながら徐々に拡大する
  2. スケジュール・時間の捻出

    • 自社の繁忙期・閑散期を把握し、業務の波を見ながら研修を計画的に実施
    • 定時後や週末の活用、シフト制、オンライン研修などを使い分けて時間を生み出す
  3. 外部リソースの活用

    • 商工会議所や自治体の安価な研修、オンライン学習プラットフォーム、専門コンサルタントの派遣など、多彩な外部リソースを組み合わせる
    • 外部研修だけに頼らず、社内でのノウハウ共有や勉強会をセットにして定着を図る
  4. インセンティブ設定

    • 研修手当や社内表彰、ゲーミフィケーションなどで社員のモチベーションを高める
    • キャリアパスとの連動や管理職のロールモデルによって学ぶ文化を根付かせる

「教育は贅沢品ではない、しかし取り組み方を誤ると成果が出にくい」というジレンマを抱える中小企業こそ、自社に合ったリソース確保の仕組みを構築することで、着実に組織力を高められます。教育投資への理解を社内外から得つつ、最小限の投資で最大限の効果を狙っていきましょう。

次回の記事では、「管理職の育成と役割」についてさらに深堀りします。管理職やリーダーが組織を引っ張るうえで必要なスキルや心構え、その研修内容と教育施策との結びつきを具体的に解説することで、組織全体のパフォーマンス向上を後押しする仕掛けを探っていきたいと思います。

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