想定読者
ゴール
前回の記事では、自社の課題・目標を明確化し、企業ビジョンとの連動をはかる重要性について解説しました。では、その明確化された課題やビジョンを、どのように「具体的な研修カリキュラム」に落とし込んでいけばよいのでしょうか。社員教育に割ける時間や予算が限られがちな中小企業においては、「何を」「どの順番で」「どのような形態で」学ばせるかの設計が、成果を大きく左右します。
教育方針がぼやけたままでは、せっかくコストや人員を割いても結果が出にくいだけでなく、社員のモチベーションも低下してしまう恐れがあります。逆に、自社ビジョンや経営課題を軸にしっかりと据え、学ぶテーマや研修方法を最適化すれば、短い期間でも確実に成果が上がるでしょう。また、社員教育の設計には「短期」と「中長期」の両面を考慮する視点が欠かせません。すぐに成果が必要なスキル研修と、将来的に企業成長を支えるリーダー・専門家を育てる研修は性質が異なるからです。
本記事では、「教育方針をどのように立案し、研修テーマを優先順位づけするか」「社内研修と外部研修をどう組み合わせるか」「短期・中長期視点をどう織り交ぜるか」など、カリキュラム設計の具体的なステップを解説します。さらに、実際にカリキュラム例を示すことで、イメージを具体化しやすくすることをねらいとしています。自社の現状に合った「無理なく、しかし効果的な」カリキュラムを練り上げるためのヒントをお伝えします。
自社の課題やビジョンが明確になったら、次のステップは「教育方針」の策定です。ここで重要なのは、単に「どの研修をやるか」ではなく、「どのような目的で、どの層を、いつまでに育てるのか」といった全体像を示すことにあります。
前回の記事との繰り返しになりますが、教育方針は常に「企業ビジョン」と紐づけて考えましょう。たとえば、今後3年以内に売上を○%伸ばしたいという経営目標があるなら、「営業力強化」「マーケティング力向上」の研修が必須かもしれません。あるいは、地域密着型ビジネスでさらなる顧客満足度を高めたいなら、「コミュニケーション研修」や「ホスピタリティ研修」も視野に入れられます。
最終的に実現したい姿や経営目標を整理して、それを達成するうえで必要なスキル・知識を洗い出す。そうすることで「このスキルが身につけば、どのような成果や変化が期待できるか」という具体的なストーリーが生まれ、社員の学習意欲も高まりやすくなります。
「すべての社員に同じ研修を一括で実施する」だけでは、企業規模が小さい中小企業においても効率が悪い場合があります。マネジメント層・リーダー候補と若手社員では、求められるスキルや学習内容が異なるため、対象層に応じた研修メニューを揃えると良いでしょう。
教育方針を立てる段階で、研修後の評価や成果測定方法も同時に考えておくと、導入効果をきちんと確認できます。たとえば「リーダー層の研修」であれば、研修後にチームの生産性やエンゲージメントスコアがどう変化したかを測定する仕組みをあらかじめ用意するといった具合です。評価軸がないままだと、研修後に「やっただけ」「聞いただけ」で終わってしまう危険が高まります。
すでに前回の内容で「課題の優先順位づけ」について扱っていますが、ここではさらに「どの研修テーマを先に行うか」を具体的に考えます。社内のリソースは限られているため、すべてを一気に実施することは難しいでしょう。そこで、実務への影響度や経営の緊急度を軸に、研修テーマの優先度を決めていきます。
どの部署にも共通して必要な「コアスキル」(たとえば基本ITスキル、情報セキュリティ知識、ビジネスコミュニケーションなど)は、優先的に強化しておくことが企業全体の底上げにつながりやすいです。一方、特定部署のみ必要とされる「周辺スキル」や「専門スキル」に関しては、対象者を絞った研修を計画することで効率性を高めることができます。
研修テーマを決める際は、経営戦略や市場の動向も重視しましょう。たとえば、今後EC事業を強化したいなら、デジタルマーケティングやWebサイト運営に関する研修が優先度高となります。DX化(デジタルトランスフォーメーション)を推進するのであれば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やデータ分析の研修を先に実施して、社内のDX推進部隊を育成する方法も考えられます。
同じスキル研修を実施しても、受講者のモチベーションやレベル感が大きく異なる場合があります。ある程度は部門や役職ごとに区分することが多いですが、中小企業であれば個人差も大きいはず。そこで、研修前に簡単な「スキルテスト」や「自己評価シート」を用いて、受講者のスキルギャップを測定し、レベル別クラスに分けるなどの工夫ができると理想的です。モチベーションの高い社員が自分に合わないレベルの研修を受けると、効果が半減してしまいます。
研修を行う方法は大きく分けて「社内研修(内製)」「外部研修(外注・提携)」の2種類があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、企業の状況に合わせて最適な組み合わせを選ぶことが大切です。
多くの中小企業にとって、**「社内研修(内製)+外部研修の併用」**が現実的な選択肢となるでしょう。基礎的な内容は内製化して社内講師やリーダーが教え、最新技術や経営ノウハウが必要な部分は外部講師を招いたり、オンライン講座を活用したりする方法です。このハイブリッドモデルをうまく活用すれば、コストと質の両面で最適化が図れます。
研修カリキュラムを設計する際に見落としがちなのが、「短期・中長期の両面で研修を組み合わせる」という視点です。企業経営にはすぐに成果を求められる領域もあれば、長い目で育てなければならない領域もあります。
即効性のある短期研修だけを繰り返していると、企業としての“学ぶ土台”が育たず、短期間で得た知識が組織全体に深く定着しにくい傾向があります。一方で、中長期研修に力を入れすぎると、日々の現場改善が後手になり、競争力の低下を招く恐れもあります。
理想的には「短期」で業務効率を素早く上げながら、「中長期」でリーダー層や専門家をじっくり育成する体制を整え、両輪で企業の成長を支えていくのが望ましいと言えるでしょう。
ここでは、架空の中小企業「ABC株式会社」を例に、どのようなカリキュラムを組むかイメージしてみましょう。あくまで一例ですが、自社に合わせてカスタマイズする際の参考にしてください。
短期研修(1〜3ヶ月スパン)
中長期研修(半年〜2年スパン)
社内研修+外部研修のハイブリッド
評価とフォローアップ
このような構成によって、「短期」と「中長期」の両方をカバーしながら、「自社固有の課題」「ビジョン実現に必要なスキル」「社員定着のためのキャリア支援」を一通り押さえられるように設計しています。
教育方針とカリキュラムの設計は、中小企業にとって「企業の未来を切り拓く設計図」を描くような作業です。自社のビジョンや課題を明確化し、研修テーマを優先順位づけしたうえで、社内研修と外部研修を適切に組み合わせ、短期・中長期の両面から社員を育てていくことで、企業の持続的な成長を実現しやすくなります。
これらのポイントを押さえながらカリキュラムを具体化すれば、限られたリソースのなかでも高い教育効果を得られます。次の記事では、さらに「必要なリソースの確保」へと話を進め、中小企業がどのように時間・予算・外部リソースを確保しながら教育体制を強化していけるかについて探っていきましょう。経営や管理職だけでなく、実際に研修を運営する人事担当者にとっても、具体的な行動指針を得られる内容になるはずです。
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